人間はみんな音楽の天才だ

言語と音楽を理解する力は、生まれながらに備わっている

私達は、普段その大切さや特殊性を気に留めることなく「会話」を交わしていますが、この「言葉を話す能力=言語能力」は、動物の中で人類だけに与えられた特別な能力です。 もし、人類が言葉や文字を持たなければ、他の動物と同じように情報のやりとりは距離や時間に制限され、こんなに多くの知識や経験を共有・蓄積し、飛び抜けて高度な文明を築くことはできなかったでしょう。

私達は話すときに、瞬時にその内容に応じた単語を選び、文法にそって文章を組み立てています。聞き手は発音された言葉を判別し、やはり瞬時に文章を分析して内容を把握しているのです。「これほど複雑で高度な能力を駆使していながら、普段私達は「言語能力」をまったく意識しません。それは奇蹟と呼んでいいほど驚くべきことだと思います。

しかし、「言葉を話す」のでなく「音楽をする」というと、とたんに「何か特殊な能力」がなければ理解できなかったり、音楽を作りだすには相当の勉強が必要だと考えられがちです。でも、音楽を楽しみ生み出す能力も、言葉を話せるのとまったく同じように生まれながら備わっているのです。

音楽は人類の共通言語

思いを強く伝えようとするときに、私達は声のトーンや調子を無意識に変えています。怒りを感じているときの声と、愛を語るときの声のトーンはまったく違います。言葉を持つ前は、人間も動物たちと同じように鳴き声によってコミュニケーションを行っていました。動物は、今も「うなり声」や「鳴き声」という「発音の調子や変化によって気持を伝えます」が、その名残が言葉の中に「声の高さや強弱の変化(イントネーション)」あるいは「声色(トーン)の違い」として息づいているのでしょう。

音楽は、言葉を使わないコミュニケーションの「名残」であると同時に、言葉では伝えられない「抽象的なイメージ(例えば心象)」などをより深く伝えるために、言葉とは異なるコミュニケーションとして発達しました。生まれたばかりの赤ん坊は、言葉を話すことができません。ただ泣いています。けれど赤ん坊は誰に言われるでもなく、大人のまねをすることで「音の高低・長短・強弱」の使い方を覚え、やがては「母音や子音も違い」さえ使い分けるようになります。そして大人から「言葉の意味」を教えられ、言葉を話すようになります。

音楽は、その声の使い分けを学ぶ過程、母親の声をまねて追いかけるように発音する、生まれながらに持っている能力を利用して、「音の運動」や「音色(声色)の変化」から豊かなイメージを連想・共有するものです。笑い声や怒鳴り声、「愛のささやき」のトーンや調子は、人種や性別に関わりなく万国共通です。「声の変化」によって「気持ち」を伝える能力は、すべての人類の遺伝子の中に深く組み込まれ、音と感情はダイレクトに結ばれているのです。人間は誰しも会話の天才であるように「音楽」を感じ理解する力も、言語能力のそれとまったく同じに特別に学ばなくても、生まれながら備わっている素晴らしい能力なのです。

人間はみんな音楽の天才

では、私達が使っている「言葉」の中にどのような形で「音楽」は息づいているのかを考えましょう。
「雨」と「飴」/「橋」と「箸」/「川」と「皮」などの「文字」は、「アメ」・「ハシ」・「カワ」などと「表音文字/カタカナ」で表記すれば意味が通じません。それは、「個々の文字の発音」に「アクセント」や「イントネーション」という「音の変化(高低や強さ)や流れ」が加わってはじめて意味が通じるからです。
これらの同音異義語を例にあげるまでもなく、「文字の集まり=文章」を正確に伝えるためには文字の棒読みでは不十分で「アクセント」や「イントネーション」などの「声のトーンや発音の変化」が必要不可欠であることがわかります。

逆を考えましょう。例えば「電子メール」などで気持ちが上手く伝わらなかったり、誤解されてしまったという経験はありませんか? 手紙なら筆運びなどから気持ちが伝わることもあるのですが、言葉を単なる記号(文字)に置き換えただけのメールでは、「文字から伝わるニュアンス」はもちろん、「言葉の中の音の変化、アクセントやイントネーション」が完全に失われているため「心の中でつぶやいた自分の思いとは違う意味合いの言葉」となって相手に届いてしまうことがあるのです。

私達は言葉を話すとき、無意識に「声のトーン(声色)」や「音の高低(イントネーション)」を変えることで、自分の思いをより正確に伝えます。話し言葉も、音楽です。私達は音楽を聞く能力と同時に、音楽を作る能力も生まれながらに持っているのです。

文字や楽譜には命がない

自分の「思い」を正しく伝えるためには、言葉と声色、イントネーションが大切だとわかりました。けれど、私達が目にする「文章」には、発音のための記号やイントネーションの付け方は書かれていません。それは意味、曖昧で不親切なのかも知れませんが、もし、文章にそんな沢山のルールが書かれていたなら、読むのにすごく時間がかかってしまうはずですし、一冊の本を書くのにもとても多くのページが必要になるでしょう。「文章」は要点だけをスピーディーに伝えられるように、合理化されているのでしょう。

私達が学校で習う「五線譜」で書かれた「楽譜」も文章同様に、要点だけが簡略に書き込まれています。だから楽譜見ながら演奏するときは、文章を読み上げる時と同じように「楽譜」に「書かれていない音の変化」を付け加えなければなりません。また私達は学校で、音楽の3要素を「リズム」・「メロディー」・「ハーモニー」だと習いますが、それは五線譜によって広まった西洋を中心とした音楽の考え方で、色々な民族音楽にまで視野を広げると、異なる要素によってなり立つ音楽があることに気づきます。
例えば、日本の能楽で使う鼓の即興演奏について考えてみましょう。そこには西洋音楽で言う「メロディー」も「ハーモニー」もありません。リズムも西洋音楽のそれとは全く違いますが、その演奏により私達深い感動に包まれます。それは音楽が「音の運動」と「音色の変化」の2要素によって構成され、「リズム」・「メロディー」・「ハーモニー」もこの基本となる「音の運動」と「音色の変化」の2要素から成り立っているからだと考えています。

棒読みのアナウンスがつまらないのと同様、ミスタッチがないだけでは、良い演奏とはいえません。楽譜の音符に正しいイントネーション(抑揚)と適度の間合いが加わって、音楽は楽しく生き生きと輝き始めるのです。演奏者は、楽譜に書かれていない、楽音の「アクセントやイントネーション」、あるいは抽象的にしか記述されていない「リズム」や「テンポ」などを「経験とイマジネーションを最大に働かせ」て模索し、表現しなければなりません。言い換えるなら、演奏者自身の「楽譜の解釈」こそ、音楽の最も大切な部分、いわば「命」なのだと思います。
文字や楽譜には命がなく、それを読み上げ、演奏する人によって初めて「命」が与えられるのです。

楽器の演奏とオーディオ機器の音作りはまったく同じ

オーディオ機器の設計に使われる「測定器」は、「音楽」を理解しません。それらが計れるのは、単純な音の高さや強弱の時間的変化でしかありません。音楽をより音楽的に伝えるために必要な「音色」や「ニュアンス」の変化を測定できないのです。そのため最終的なオーディオ機器の音決めは「人間が聞いて」行います。

先ほど「人間はみんな音楽の天才だ」と書きましたが、もしそれを生業とするのであれば、音決めするエンジニアはきちんと音楽を学び、「好き嫌い」と「善し悪し」の違いを知る必要があります。オーディオマニアが自分のオーディオシステムの音を判断するときにも、ある程度「音楽の基礎」をきちんと知っておくことが大切です。
確かに、装置の組合せを変えたり、色々なアクセサリーを試したりしながら、自分の好みの音にオーディオシステムをチューンナップしてゆくのは楽しいものです。しかし、自分勝手な思いこみや先入観だけで、音を判断し続ければ、文章をめちゃくちゃな発音とイントネーションで読み上げているのと同様、伝えられるべき内容が大きく変えられてしまい、演奏された音楽とは、まったく別の音楽になってしまいかねません。
我流でスポーツを続けてもいずれは壁にぶつかって進めなくなってしまうことがあるように、オーディオ選びやアクセサリーの使用法に迷ったときには、正しいインストラクターやコーチにアドバイスを求めることで、より無駄なくスムーズに「ゴール=より深く音楽を楽しむ」にたどり着けるのだと思うのです。

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