CD時代にスタートしたウィーン・フィルとのブルックナー録音の集大成
晩年のハイティンクがウィーン・フィルと作り上げた完熟のブルックナー・サウンド。世界初リマスター&Super Audio CD ハイブリッド化が実現。
エソテリックによる名盤復刻シリーズ SACDハイブリッドソフト
ESOTERIC(エソテリック)は、「ESOTERIC名盤復刻シリーズ」スーパーオーディオCDハイブリッド盤2作品を発売開始いたします。社内に構築した「エソテリック・マスタリング・センター」にてリマスタリングを行いました。定評の丁寧なマスタリング作業に、独自のデジタル技術を駆使して開発した「Esoteric Mastering」の音楽表現力が加わり、さらなる感動をお届け出来るスーパーオーディオCDに仕上がっています。
20世紀後半〜21世紀の指揮界を牽引したオランダの静かな巨匠
2019年9月、ウィーン・フィルとのルツェルン音楽祭におけるブルックナー交響曲第7番の演奏を最後に90歳で指揮活動から引退し、2年後に亡くなったベルナルト・ハイティンク(1929-2021)。ヴァイオリニストとしてスタートし、フェルディナント・ライトナーに指揮を師事後、1955年にオランダ放送フィルの次席指揮者、1957年より首席指揮者に就任して指揮者としてのキャリアをスタートさせたハイティンクが国際的な注目を大きく浴びたのは、1961年、わずか32歳で名門アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に任じられた時のこと。就任当初こそ補佐役としてヨッフムが支えたものの、ハイティンクは1988年まで28年間にわたって同団と活動し、オランダを代表する存在から世界有数のアンサンブルへと育て上げました。ロンドン・フィル(1967〜79年)、英国ロイヤル・オペラ(1987〜2002年)、ボストン響、シュターツカペレ・ドレスデン、シカゴ響など、世界的なオーケストラやオペラのポストを歴任し、20世紀後半から文字通り指揮界を牽引した活動を60年以上にわたって続けた名指揮者でした。
若きハイティンクのディスクでの名声を決定づけたブルックナー解釈
ハイティンクで特徴的なのは、指揮活動と並行して行われた広範な録音活動でしょう。1959年、コンセルトヘボウ管就任前に同団と録音したベートーヴェンの交響曲第8番とメンデルスゾーンの交響曲第4番以降、第2次大戦後のオランダの新興レーベル、フィリップスにハイドンから武満徹に至る膨大なディスコグラフィを築き上げました。オランダ随一の楽団の録音をオランダ随一のレーベルが後押しするのは自然なことで、折しもステレオという新しい技術による新しいカタログが渇望される状況の中で、若いハイティンクは名門楽団と次々にスタンダード・レパートリーの録音を発表し、その名を世界的に知られるようになりました。中でも特に高い評価を得たのが1960年代から録音を開始し1970年代初頭に完成させた後期ロマン派の2大作曲家であるブルックナー(1963〜72年)とマーラー(1962〜71年)の交響曲全集でした。前者はヨッフムのDG盤に次いでステレオ録音史上2組目となったものですが、第0番を含む単一オーケストラの録音としては初の全集であり、後者はバーンスタインのCBS盤、クーベリックのDG盤に続く史上3組目の全集となり、折しもステレオの再生システムの一般家庭への普及と並行して、ディスクにおけるブルックナーとマーラーの大家としてのハイティンクのアーティスト・イメージを大きく向上させることになりました。ベートーヴェンやブラームスの交響曲全集よりも先にブルックナーとマーラーを録音するという点もそれまでの指揮者とは異なる、いわば当時の若手世代ならではの斬新なフィリップス・レーベルのレパートリー・ポリシーを喧伝することになりました。
CD時代にスタートしたウィーン・フィルとのブルックナー録音の集大成
細部をゆるがせにしない緻密で真摯なハイティンクの音楽性は、マーラー以上にブルックナーの作品との強い親和性を示し、それもあってかハイティンクは年月を経るに従って再録音を重ねていきます。アナログ後期〜デジタル初期にはコンセルトヘボウ管と第7〜9番の後期3曲を再録音しそのスケール大きな円熟ぶりを示しています。さらに1985年からはオーケストラをウィーン・フィルに替えての再録音に乗り出し、「全集録音」という触れ込みでまず第4番、1988年に第3番と第5番という中期の3曲を続々録音し、旧録音以上にブルックナー作品の本質に深く入り込む名演を刻んでいます。そしてそのあと7年ものブレイクを経て録音されたのが、今回当シリーズで初めてハイブリッド化される1995年の交響曲第8番なのです。1月10日〜13日の4日間をかけた(おそらくリハーサルも兼ねたと思われる)録音セッションで収録され、その直後に2回の定期演奏会を行い、さらにリンツ、パリ、ロンドン、トゥールーズへのツアーでも披露しています。ライヴ収録ではなく、じっくりとセッションを組んで収録してから演奏会を行うという流れは、現在ではなかなか実現できない贅沢な収録体制であり、フィリップス側の意気込みを感じさせます。結局この録音を最後にフィリップスでのウィーン・フィルとのブルックナー全集は継続しませんでしたが、ハイティンク自身はこの後もウィーン・フィルでブルックナーの交響曲をたびたび演奏しており、第8番については1998年、2002年、2015年にも取り上げています。
今では希少なハース校訂の旧全集版を使った自然体の魅力
1980年代以降ウィーン・フィルはジュリーニ、カラヤン(当シリーズでディスク化)、ハイティンク、ブーレーズ、ティーレマンという5人の指揮者でブルックナーの交響曲第8番を録音しています。その中でもこのハイティンク盤は実に自然体で、指揮者の恣意的な解釈なしにブルックナー音楽の魅力に浸りきることができる演奏です。ウィーン・フィルは温かみのあるサウンドでハイティンクの指揮に応え、オーボエやクラリネットをはじめとする個性的な音色を持つ木管楽器、名物ともいえる濃厚なウィンナ・ホルンの吹奏、華美になりすぎないものの厚みのある弦楽パートなど、ウィーン・フィルというオーケストラの特質を極限まで堪能いただけます。テンポも遅からず早からず、適正な歩みで丁寧にブルックナーのオーケストレーションの魅力の扉を開けていくかのようです。ブルックナーの交響曲では使用される版や稿が話題になりますが、基本的に旧全集支持派だったハイティンクは、この第8番も1939年に出版されたロベルト・ハース校訂の第2稿を使っています。ハースの独断による改変ゆえに作曲者による改訂工程にはない稿態となったため21世紀の現在ではあまり顧みられなくなった校訂譜ですが、20世紀中盤までのブルックナーのイメージを体現化したような移行パッセージ(ハースの創作)はノーヴァク校訂版にはない独自の魅力で、その意味でも歴史的価値を持つ録音と称せましょう。
最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化を実現
録音は観客のいない純粋なセッションとしてムジークフェラインザールで行われました。プロデューサーはフィリップスのヴェテラン、フォルカー・シュトラウス(1936-2002)。アナログ時代後期からデジタル時代にかけてのフィリップスの主要なクラシック録音を担った名プロデューサーで、日本における「ウォームでヨーロピアンなフィリップス・サウンド」というイメージを確立させた立役者の一人です。ウィーン・フィルによるフィリップス録音は1980年のハイティンク指揮ブラームス「ドイツ・レクイエム」が最初で、数も現在は同じユニバーサル傘下となったドイツ・グラモフォンやデッカほど多くはありませんが、このハイティンクのブルックナーをはじめとして、当シリーズで発売したプレヴィン指揮の「シェエラザード」「展覧会」など名録音が目白押しです。セッションゆえに無観客とはいいながら響きすぎず、オーケストラの各声部は明晰に聴きとっていただける一方で、オルガン的ともいわれるマッシヴなブルックナー・サウンドの魅力を堪能いただけます。
今回は発売以来初めてのリマスターが実現。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
『幅広くスケール感のある表現』『密度の濃い、巨匠的貫録を示す見事な演奏』
「ハイティンクとウィーン・フィルのコンビによる一連のブルックナー録音の最後を飾る名演である。それまでの演奏と比べると、やわらかな抒情味が後退して、この作曲家らしい峻厳さが増した印象である。しかしこけおどしの強奏や大仰な見得を排して繊細かつ豊かな陰影を施しつつ、力みかえったりせずに余裕をもってゆるぎない音楽を構築する解釈は健在で、全曲にわたって緊張感を持続させ、弱奏の静謐さから強奏の迫力まで、濁りのない響きを保持して幅広くスケール感のある表現を繰り広げてすばらしい。」
『レコード芸術名盤大全 交響曲・管弦楽曲上巻』2015年
「40代のころから比べるとテンポはかなり遅くなったが、その分内容的に密度の濃い演奏に変貌し、まさに巨匠的貫録を示す見事な演奏を繰り広げている。各主題のフレーズの幅をたっぷりとって、息の長い旋律の抑揚と併せて細やかな表情も随所に織り込んで、大きな流れを生み出している。対旋律も含めて旋律軍が自然で大きな空間に漂っている。また旋律間をつなぐブリッジの扱いも丁寧で、長大な曲をまさに有機的に組み立てていく。」
『レコード芸術不滅の名盤1000』2018年
[収録曲]
◇アントン・ブルックナー(1824-1896)
■交響曲 第8番 ハ短調(ハース版)
[1] |
第1楽章:Allegro moderato |
[2] |
第2楽章:Scherzo(Allegro moderato) |
[3] |
第3楽章:Adagio(Feierlich langsam, doch nicht schleppend) |
[4] |
第4楽章:Finale(Feierlich, nicht schnell) |
[詳細]
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルナルト・ハイティンク 指揮
録音 |
1995年1月10日〜13日、ウィーン、ムジークフェライン、グロッサーザール |
初出 |
Philips 446 659-2(2枚組)(1995年) |
日本盤初出 |
Philips PHCP3493〜4(2枚組)(1997年1月25日) |
オリジナル・レコーディング |
[アーティスツ&レパートワー・プロダクション]コスタ・ピラヴァッキ、ヘルミーネ・スターリンガ
[レコーディング・プロデューサー、バランス・エンジニア]フォルカー・シュトラウス
[レコーディング・エンジニア]セース・ヘイコープ、ティース・ヘクストラ、ウィレム・ヴァン・レーウエン、シュテファン・レー
[テープ・エディター]エーヴェルト・メンティング |
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