帝王カラヤンが生涯親しんだシュトラウス・ファミリーの名曲の数々。ゲストとして登場するキャスリーン・バトルの歌声にも注目!
一大センセーションとなったカラヤン初登場のニューイヤー・コンサート。この年を契機に1月1日の世界的に注目されるイヴェントになった一方、この2年後に世を去ったカラヤンにとっては「ただ一度きり」のものとなった伝説の演奏会を収録した1枚をDSDマスタリング& Super Audio CDハイブリッドディスク化。
ウィーン音楽の申し子、カラヤンが生涯で唯一指揮台に立った1987年のニューイヤー・コンサート
録音当時ベルリン・フィルの音楽監督でウィーン・フィルとも多くの演奏と録音を行なっていた最高の巨匠ヘルベルト・フォン・カラヤンが生涯で唯一指揮台に立った1987年1月1日のニューイヤー・コンサート、その時の演奏が記録されたライヴ録音です。
新年に行われるこのコンサート、1987年以前は長い間常任ともいえる同じ指揮者が努めていましたが、この年、初めてカラヤンが登場、それ以降毎年、世界中のいろいろな指揮者が担当するという、シュトラウス・ファミリーの音楽を楽しむことと同等に「今年の指揮者は?」という新たな興味も加わり、コンサートはより一層世界的に注目されるイヴェントとなっていきました。その先駆けともなったカラヤンの登場ですが、ここで彼は歌手キャスリーン・バトルを抜擢、コンサートのクライマックスを見事に作り上げました。この2年後、カラヤンは81歳で世を去り、ニューイヤー・コンサートの再登場は果たされませんでした。この演奏会はカラヤンにとっても「ただ一度きり」のものとなってしまい、そうした伝説の演奏会を収録した一枚こそがこのディスクに他ならないのです。カラヤンならではの演出によるウィーンの調べ、それをここで堪能ください。
新しいニューイヤーの時代を作ったカラヤンのコンサート
ウィーン・フィルが毎年1月1日に本拠のムジークフェライン・ザールで開催するニューイヤー・コンサートは、すでに80年以上の伝統を誇ります。世界中にテレビ中継されるだけでなく、ライヴ収録のCDや映像もすぐにリリースされるなど、世界最大の音楽イヴェントになっていることはいうまでもないでしょう。シュトラウス・ファミリーに代表されるワルツやポルカは19世紀にウィーンで大流行、本場であるウィーン・フィルも歴代の名指揮者たちと散発的に演奏していましたが、初めてオール・シュトラウス・プログラムによるコンサートの開催を決めたのは意外に遅く、ヨハン II世の生誕100年を祝う1925年でした。そして指揮者クレメンス・クラウス(1893〜1954)が1939年12月31日にウィーンで第1回ニューイヤー・コンサートを開催、第2回の1941年から1月1日に行われるようになりました。
初期のニューイヤー・コンサートに最も貢献したクラウスは、大戦直後の1946、47年をヨーゼフ・クリップス(1902〜1974)に任せた以外、1948年から54年まで指揮しまたが、1954年5月にメキシコ旅行中に急死、1955年からはコンサートマスターのウィリー・ボスコフスキー(1909〜1991)に受け継がれ、彼はワルツ王ヨハン II世のようにヴァイオリンを弾きながら指揮し、1979年に病気で退くまで25年間に渡りシュトラウス・ファミリーの作品を数多く録音するとともに、ラジオやテレビ中継によりコンサートの人気を世界的に高めました。そして1980 年からはウィーン国立歌劇場の音楽監督も務めたロリン・マゼール(1930〜2014)が初の外国出身の指揮者として登場、86年まで時に本業とも言えたヴァイオリンを自身で弾きながら指揮を担当しました。そして1987年、帝王カラヤンが指揮台に立ちます。これは一大センセーションとなり、ニューイヤー・コンサートは新しい時代を迎えることになります。88年はクラウディオ・アバド、89年はカルロス・クライバー、90年はズービン・メータと、毎年指揮者を代えて、世界的な新年の行事となっていったのです。
深い繋がりのあるカラヤンとシュトラウス・ファミリー
ザルツブルクに生まれウィーン音楽アカデミーで学んだカラヤンは、早くからシュトラウス・ファミリーの作品をレパートリーにしていて、SP時代の1940〜42年にベルリン・フィルと《芸術家の生活》、皇帝円舞曲、《ジプシー男爵》と《こうもり》序曲の4曲を録音(グラモフォン)したのに続き、大戦後の1946年から49年にかけてはウィーン・フィルとベルリン・フィルと《美しく青きドナウ》、《浮気心》《トリッチ・トラッチ・ポルカ》など全15曲を、さらに1950年代のモノLPにもフィルハーモニア管弦楽団と『シャンペン・コンサート』と題したシュトラウス・ファミリーの作品集(6曲)、喜歌劇《こうもり》全曲を吹き込んでいるほど、シュトラウス音楽には大いなる関わりを持って来ました。ベルリン・フィルとウィーン国立歌劇場の音楽監督などを兼ね、「帝王」と呼ばれだした1950年代後半からステレオ録音時代を迎えると、ウィーン・フィルと『シュトラウス・コンサート』(6曲)と喜歌劇《こうもり》全曲の再録音(以上英デッカ)、さらに1960年代の後半以降はベルリン・フィルとシュトラウス・ファミリーの作品集を2枚(17曲)、デジタル録音時代を迎えた1980年にもグラモフォンとEMIにレコーディングを行っているように、レコーディングの技術革新とともにシュトラウス・ファミリーの作品をベートーヴェンの交響曲と同様に録音しているのです。
ウィーン音楽と深く関わりのあったカラヤンですが、本作はカラヤンが指揮した唯一のニューイヤー・コンサートのライヴであり、シュトラウス・ファミリーの最後の録音でもあるのです。
その後一度も登場していない歌手による《春の声》
このコンサート、宴もたけなわな後半、満を持して登場するのが歌手キャスリーン・バトルです。全12曲の中で《観光列車》、《アンネン・ポルカ》、《憂いもなく》はカラヤンとしては初めてのレコーディング曲ですが、もう1曲《春の声》も初めての曲であり、そのソリストとして出演したのが歌手キャスリーン・バトルでした。1948年アメリカ、ニューハンプシャー州ポーツマスに生まれた彼女はシンシナティ大学音楽院で学んだ後、同年に歌手デビュー、78年にはメトロポリタン歌劇場のメンバーとなります。多くのオペラに登場し、80年代にはヨーロッパへ進出、オペラの他にコンサート歌手としても活動、このコンサートの前の年には、ニッカウヰスキーのテレビ・コマーシャルに抜擢され、日本でも非常に親しまれ、彼女の歌った〈オンブラ・マイ・フ〉は日本で大ヒット、人気の絶頂期にいたソプラノです。
カラヤンのグラモフォン録音の特徴と今回のライヴ録音
録音エンジニアは「カラヤンの耳を持つ男」と言われた名手ギュンター・ヘルマンスです。グラモフォンのカラヤン録音には欠かせない人物ですが、彼の特徴は単なる音質の優秀さだけではありませんでした。70年代以降、カラヤンはコンサートとレコーディングとは全く違うシステムを構築していました。レコーディングでは全曲を通して演奏することがない時もあったのです。マルチ録音が盛んに行われていた時代、ある楽章の一部分、楽器別のパートだけ…、を収録してトラックダウンでそれをミックスさせる、そうした方式を録音時にカラヤンは要求していたようです。部分部分の収録をミックスさせカラヤンの意図に準じた音作りをする、ヘルマンスはその作業には欠かすことが出来ない貴重な人物でありました。さて、そこで気になるのはこのレコーディングです。1回限りの実況録音です。ちょっとした問題箇所はリハーサル時のテイクで補うことがあったかも知れませんが、俗に言う一発録りです。日頃のカラヤン・サウンドと、ここには違いがあるのか? ヘルマンスの音に変化は…。ここも聴きどころの一つと思われます。
ライヴの生き生きとした雰囲気、オリジナル・マスターのもつ情報をすべてディスクに
Super Audio CDハイブリッド化は今回が初めて。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「EsotericMastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
「シュトラウス・ファミリーの音楽ならではの愉悦感、肌理こまやかな引き締まった響きと格調の高い表現」
「カラヤンの初登場ということもあって、会場のムジークフェラインザールは例年になく熱気に包まれていたと伝えられているが、ウィーン・フィルによるシュトラウス・ファミリーの音楽ならではの愉悦感をいつにも増して肌理細やかなひきしまった響きと格調高い表現もすばらしい。そしてまた演奏の特徴と会場の雰囲気もより明瞭に味わうことができるのもハイブリッド盤ならではの魅力といえよう。」
本ディスク・ライナーノーツより抜粋・浅里公三氏
「《春の声》ではバトルの歌唱を起用、その澄み切った歌声とウィーン・フィルの音色が新年を祝うかのように響き渡る。」
旧盤PROC1787より
「1987年の年明、クラシック音楽界…ひいては音楽界全体を席巻したビッグイベント。それこそが、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートに、ヘルベルト・フォン・カラヤンが初登場を果たした出来事だった。テレビやラジオを通じ、世界各地で放映されてきた名物演奏会と、20世紀後半における「クラシック音楽」の代名詞として話題を呼び続けたカラヤンの取り合わせ、しかもゲストとして当時話題沸騰中だった気鋭のソプラノ歌手キャスリーン・バトルまでが加わる…。となれば、話題にならないはずがない。」
本ディスク・ライナーノーツより抜粋・小宮正安氏
[収録曲]
◇ヨハン・シュトラウス II世(1825-1899)/ ヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)
| [1] |
喜歌劇《こうもり》序曲 / ヨハン・シュトラウス II世 |
| [2] |
ワルツ《天体の音楽》作品235 / ヨーゼフ・シュトラウス |
| [3] |
アンネン・ポルカ 作品117 / ヨハン・シュトラウス II世 |
| [4] |
ワルツ《うわごと》作品212 / ヨーゼフ・シュトラウス |
| [5] |
ポルカ《観光列車》作品281 / ヨハン・シュトラウス II世 |
| [6] |
ピチカート・ポルカ / ヨハン II世 & ヨーゼフ・シュトラウス |
| [7] |
アンネン・ポルカ 作品137 / ヨハン・シュトラウス I世 |
| [8] |
ポルカ《,雷鳴と電光》作品324 / ヨハン・シュトラウス II世 |
| [9] |
ワルツ《春の声》作品410 / ヨハン・シュトラウス II世 |
| [10] |
ポルカ《憂いもなく》作品271 / ヨーゼフ・シュトラウス |
| [11] |
ワルツ《美しく青きドナウ》作品314 / ヨハン・シュトラウス II世 |
| [12] |
アラデツキー行進曲 作品228 / ヨハン・シュトラウス I世 |
[詳細]
キャスリーン・バトル(ソプラノ)[9]
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
| 録音 |
1987年1月1日、ウィーン、ムジークフェライン・ザール |
| 初出 |
Deutsche Grammophon 419 616-1(LP)、419 616-2(CD) |
| 日本盤初出 |
ポリドール-グラモフォン F35G20123(1987年12月) |
| オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー]ギュンター・ブレースト、ミシェル・グロッツ
[バランス・エンジニア]ギュンター・ヘルマンス |
※製品の仕様、外観などは予告なく変更されることがありますので、予めご了承ください。