長い年月を経て、今なお聴き褪せることのない不滅のデュオ。
十二分に音楽的な対話を楽しみながら静謐な演奏の中に秘められている、燃えるようなメランコリーに注目!
その語り口、コード進行、ハーモニーで独自の表現をしていたビル・エヴァンスと、音楽的ダイナミズムと繊細な感性を磨いていったジム・ホール。両者の協調とちょっとした刺激、凌ぎ合いが理想的なデュオとしてここに展開されている一大傑作をDSDマスタリング& Super Audio CDハイブリッドディスク化。
ジャズにおけるデュオ・アルバムの頂点に君臨する至高の1枚
リリースされてから60年以上、いまだに聴き褪せることのない不滅のデュオ作品『アンダーカレント』の初Super Audio CDハイブリッド化です。50年代半ばからその語り口、コード進行、ハーモニーで独自の表現をしていたビル・エヴァンス、ジャズ・ギターのスタンダードな道を常に歩みながら、少しずつ着実に変化をしながら音楽的ダイナミズムと繊細な感性を磨いていったジム・ホール、両者の協調とちょっとした刺激、凌ぎ合いが理想的なデュオとして、ここに展開されている一大傑作です。
ビル・エヴァンス(1929年8月〜1980年9月)とジム・ホール(1930年12月〜2013年12月)によって62年4月から5月にかけて吹き込まれた『アンダーカレント』は、ふたりのミュージシャンのもっている繊細な歌心、ロマンがこぼれるような抒情性、知的に洗練された即興が見事なインタープレイに昇華された“特別な”デュオ作品です。ジャズ・コンボの最小フォーマットでもあるデュオ演奏。プレイヤーの個性が赤裸々に出るデュオという形式を借りて、2人はそれぞれの持ち味を発揮しながらも十二分に音楽的な対話を楽しんでいるようにも見えます。静謐な演奏の中に秘められている、燃えるようなメランコリー。これまでジャズの世界で多くのデュオの名品が生まれてきているものの、本作は60数年の時の流れを超えてなお、デュオ・アルバムの頂点に君臨する至高の1枚になっています。
最盛期に突然訪れた不幸に直面し、その後の活動を模索し始めたビル・エヴァンスと円熟期に入ったジム・ホールとの音楽性が合致した邂逅
クラシック音楽の印象派にも通じる斬新なハーモニー感覚とともに、この頃ビル・エヴァンスはピアノ・トリオというフォーマットに革新をもたらす新しい表現スタイルを確立していきました。ベーシストのスコット・ラファロ、ドラマーのポール・モチアンと一緒に生み出された新しいピアノ・トリオの響き。とくにラファロのベースは従来のリズム・キープという役割だけでなく、まるでホーン・プレイヤーのようにベースを歌わせながらエヴァンスのピアノに絡みついて、スリリングな感情の交感を聴かせていきます。そして不朽の名盤『ワルツ・フォー・デビー』と『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』というライヴ・アルバムが生まれました。しかしその収録の直後、ラファロは61年7月に交通事故のために25歳の若さで突然に世を去ってしまいます。かけがえのない相棒を失ったエヴァンスは、しばらくはピアノをさわる気になれないほど失意の日々を送りました。半年ほどが過ぎた頃、活動を再開したエヴァンスは、トリオだけでなくソロ・ピアノやコンボ演奏を含めて、さまざまなフォーマットへのチャレンジも行うようになります。本作が吹き込まれた62年春は、まさにエヴァンスが未知の冒険に向けて意欲をもち始めた時期だったのです。
ジム・ホールもビル・エヴァンス同様50 年代半ばから活動し、61年末からはソニー・ロリンズのクァルテットに加わって演奏していました。ピアノのいないクァルテットで伴奏を含めいろいろな役割をこなしながら彼は大きな成長を遂げたように思われ、これを契機に音楽的にも一段階スケールの大きなミュージシャンになっていきました。そうした円熟期に入ろうとする時期にこの作品は録音されています。音楽的にもスケールアップしたホールのギターは、以前から持ち合わせていたナイーブな感性、しなやかにメロディを歌わせてゆくプレイにより一層の奥深いニュアンスを感じさせるようになり、外面的な明るさよりも内省的なハーモニーの響きを探求してゆく彼独自のスタイルは、エヴァンスの音楽性とも見事に一致したのです。
制作者の目指す音楽を遥かに超えた奇跡的演奏
アルバムのプロデューサーはアラン・ダグラス。のちに自身のアラン・ダグラス・プロダクションをもってジミ・ヘンドリックスやジョン・マクラフリンなどの作品も手掛けるダグラスですが、このときはジャズ・プロデュースをはじめて間もない頃。映画会社のユナイテッド・アーティスツが新たに設立したジャズ部門を任されて彼はまずジム・ホールに声をかけてデュオ・アルバムを作りたいとオファーしました。「ビル・エヴァンスとなら一緒にやってみたい」というホールの返事を受けて、このセッションが生まれることになりました。ダグラスは「バラード中心のアルバムにしたい」というアイデアも出していて、作品を耳にすればプロデューサーの狙いは十二分に汲みとられていることが分かります。しかし演奏の内容はダグラスの意図を大きく上回って、凡百のバラード作品の域をはるかに超えた“極上のデュオ・セッション”が繰りひろげられていったのです。その象徴とも言えるのが冒頭の快速調「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」です。ここでのエヴァンスとホールによる演奏は、どの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」とも異なるもの。“えっ、こんなテンポで?”と言えるようなアップテンポで演じられており、原曲のもつラインやハーモニーの美しさを生かしながらも、あくまでスリリングなインタープレイの素材としてメロディを奏で、自在な即興プレイが繰りひろげられてゆきます。それぞれに個性を十二分に押し出しながら、たがいを触発し合うところから生まれる張りつめた緊迫感の持続! “バラード”というイメージの対極にあるような演奏!! ジャズとは常に人の期待通りには行かないもの、それを大きく超えるものなのです。
この音質! そこにはある決断が…
Super Audio CDハイブリッド化されもっといい音でこの作品を聴きたい、という声は数多くありました。それは長年の願いであったのですが、なかなか現実化することは出来なかったのです。何回もリリースされたCDでもその都度、われわれが直面した問題は解決されていないようでした。それぞれマスターの壁にぶち当たっていたのでしょう。その主な原因はマスターテープ由来のヒスノイズだと思います。ノイズ対策もいくつか試みましたが、今回私ども出した答えは、原点ともいえる「マスターの音そのままを忠実にディスクに刻む」という行為でした。ノイズカットを試みるよりは、やはり音の力感、鮮度、こまかな表現を極力損なわない、ありのままのサウンドを求めることにしました。上記の事由からSuper Audio CDハイブリッド化は今回が初めて。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSD マスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
テープ由来のヒスノイズを除去することで失われる、当時の管球ギターアンプの音色、強いピッキング時に若干生じる音のひずみ、そしてビル・エヴァンスの繊細なニュアンスを含んだピアノのタッチ…。どうしても表現したかった、それらのニュアンス、今までにはなかったピアノとギターの音をこのディスクで味わってください。
「冒頭の“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”の凄まじさ! デュオの醍醐味をこれほど深く味あわせてくれる例は他にない」
「デュエット・プレイの可能性が追求された演奏といえよう。良く知られた曲もまったく新たな装いで登場する。資質的にも合うビル・エヴァンスとジム・ホールのインタープレイは、お互いを刺激し合いながら一人では世界へと突入する。とくに原曲のバラードというイメージがほとんどない冒頭の“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”が凄まじい。」
『ジャズ・レコード百科 '79』1979年 スイングジャーナル社
「この世にある数多くのデュオ・アルバムの中でもこの作品は最高の地位に置かれる名品である。内省的なタイプである2人が交わす対話の素晴らしさはとても表現しようがない。デュオの醍醐味をこれほど深く味あわせてくれる例は他にない。」
『モダン・ジャズ名盤500』1993年 音楽之友社MOOK
「アップテンポで演奏する冒頭の“マイ・ファニー・ヴァレンタイン”が圧巻。度肝を抜かれてしまう。きわめて創造的であり音楽的な白人ジャズメン2人、両者の音楽性の高さ、相性の良さに感心させられる作品だ。」
『完全新版モダン・ジャズ名盤500』1999年 音楽之友社MOOK
「ピアノとギターのサウンドが、これほど美しく調和したジャズは他に例がない。ビル・エヴァンス自身もギター向きにスタイルを変えることなくひたすら入念な演奏。両者の即興によるパフォーマンスはまさに神業。」
『ジャズ・ジャイアンツ これが決定盤』1986年 スイングジャーナル社
[収録曲]
| [1] |
マイ・ファニー・ヴァレンタイン |
| [2] |
アイ・ヒア・ア・ラプソディ |
| [3] |
ドリーム・ジプシー |
| [4] |
ロメイン |
| [5] |
スケーティング・イン・セントラル・パーク |
| [6] |
ダーン・ザット・ドリーム |
| [7] |
星へのきざはし |
| [8] |
センチになったよ |
| [9] |
マイ・ファニー・ヴァレンタイン (別テイク) |
| [10] |
ロメイン(別テイク) |
[詳細]
ビル・エヴァンス(p)
ジム・ホール(g)
| 録音 |
[2、4、8]1962年4月24日、ニューヨーク、サウンド・メーカー
[1、3、5〜7、9〜10]1962年5月14日、ニューヨーク、サウンド・メーカー |
| 初出 |
米United Artists Jazz UAJS15003(1962年8月) |
| 日本盤初出 |
「暗流」 日本コロムビア・レコード UAS-1029J(1963年) |
| オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー]アラン・ダグラス
[バランス・エンジニア]ビル・シュワーター |
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