指揮者王国ハンガリーに生まれた才能豊かな名指揮者フリッチャイによるアナログ円熟期の名盤
ドイツ・グラモフォンの看板指揮者であったフリッチャイの残した唯一無二のベートーヴェン、その中でも特に内容・人気とも高い奇数番号の交響曲集です。ステレオ初期、レコード技術が急速に進化し、最も輝いていた時代を疾風の如く駆け抜けた夭折の巨匠が残した圧倒的な演奏が新たにDSDマスタリング & Super Audio CDハイブリッドディスクで現代に甦ります。
指揮者王国ハンガリーに生まれた才能豊かな名指揮者フリッチャイ
フェレンツ・フリッチャイ(1914-62)は48歳という若さで夭折したハンガリーの指揮者です。ハンガリーと言えば指揮者の宝庫。19世紀の後半以降、伝説的な巨匠ニキシュをはじめライナーやセル、オーマンディ、ドラティ、ショルティなどの名指揮者を輩出しています。その中でもフリッチャイはステレオ初期を代表する名指揮者でした。
ブダペストに生まれたフリッチャイは幼時から指揮者を目指しました。父の勧めでオーケストラのさまざまな楽器も習得して15歳でデビュー。大戦が終了した1945年からブダペストの国立歌劇場の音楽監督とブダペスト・フィルの指揮者も兼務しました。
初めてフリッチャイが国際的に注目されたのは、1947年のウィーン芸術週間に出演後、同年のザルツブルク音楽祭でクレンペラーに代わって指揮したアイネムのオペラ《ダントンの死》の初演で大成功をおさめてからでした。この大成功によりフリッチャイはウィーン国立歌劇場を定期的に客演するようになり、1948年のザルツブルク音楽祭や同年秋には2カ月間にベルリンのRIAS響とベルリン・フィル、市立歌劇場と国立歌劇場のオペラに相次いでデビューしてセンセーショナルな成功をおさめました。そしてアメリカ占領地区に新設されて間もないRIAS響(現ベルリン・ドイツ響)の首席指揮者に就任して、彼らをベルリン・フィルに匹敵するオーケストラに育成します。
ステレオ初期にドイツ・グラモフォンとともに歩むも、その看板スター時代に悲劇が襲う
翌年から市立歌劇場(現ベルリン・ドイツ・オペラ)の音楽監督も兼ね、ベルリンを拠点に活躍、ドイツ・グラモフォン・レーベルと契約して1948年からレコード界に新時代をもたらしたLPを次々と録音してグラモフォンとともに世界的な名声を高めました。欧米各地で活躍、1954年からヒューストン交響楽団に招かれましたが、音楽上の方針の相違から1シーズンで退任してドイツに戻り、1956年からミュンヘンのバイエルン州立歌劇場音楽総監督に就任します。
そうした活躍の最中のことです。フリッチャイは新時代を代表する名指揮者として急速に名声を高めていた1957年に白血病を発症してしまいます。1958年夏には退任を余儀なくされ、同年11月と59年1月の2度に及ぶ大手術のため活動を中断、しかし同年9月には54年に退任後も定期的に指揮し演奏旅行も続けていたベルリン放送響の首席指揮者に復帰します。新ホールのオープニング公演を指揮、翌年からドイツ・オペラの音楽監督にも復帰し、1961年9月に新設された劇場のオープニング公演を『ドン・ジョヴァンニ』で飾ったのです。しかし12月にウィーンとボンへの演奏旅行後に病気が悪化、翌年1月に3度目の手術を行ない、夏には一時回復したと思われましたが、1963年2月20日にスイスのバーゼルで48歳の生涯を閉じてしまいました。
難病に直面しフルトヴェングラーの再来と称された時代に残された本作
フリッチャイがベルリンを中心に活躍したのは、レコード界がLPの登場とともに急発展した1948年からステレオ録音が普及するまでの15年と短い期間でしたが、2歳上のショルティや同年生まれのクーベリックやジュリーニよりも彼は早く世界的な名声を獲得し、その間にドイツ・グラモフォンを代表する指揮者としてヨッフム、マルケヴィチなどと共に多くの録音を残しました。モーツァルトとバルトークをレパートリーの2本の柱として古典派から東欧やロシア音楽も含む現代までと広く、オペラもモーツァルト、ワーグナー、ヴェルディに代表されるイタリア・オペラも高く評価されていました。
また録音技術を特に研究して録音も多かったフリッチャイですが、彼の音楽表現は1957年に白血病を発症した頃から次第に変化して行なったことがレコードからも覗えます。かなりゆっくりしたテンポを微妙に変化させながら緊張感を失わない表現は一段と深くなり、そのスケールの大きな表現は往年の巨匠フルトヴェングラーを彷彿とさせる内容になっていきました。フリッチャイは発病後に友人への手紙に「試練はまさに正しい時にやってきました。(中略)音楽における表現という問いに答えるために」と書いたように、グラモフォンがステレオ録音を開始した1957年からの一連の録音の多くが、遅めのテンポとともにより深くスケールの大きな表現を聴かせるようになったのは、残された時間は多くないと予感した彼がマルチ・トラック録音も使いこなし、驚くべき集中力で演奏に取り組んだ成果といえるでしょう。
白血病の闘病中、体調のよい時に録音したベルリン・フィルとのモーツァルトのミサ曲ハ短調と並び讃えられるベートーヴェンの交響曲3曲と序曲2曲を2枚に収録した今回のハイブリッド盤は、フリッチャイを「生命力あふれる力を精神的な魔力へと昇華させる音楽家」と評したドイツの評論家ヴェルナー・エールマンが、ベートーヴェン演奏を評した「経験や知覚を越えた驚くべき啓示とでもいうべきものであった」ことを再認識させるかけがえのない遺産なのです。
ステレオ黎明期LP初期のオリジナル・マスターのもつ情報を余すところなく…
アナログ円熟期の名盤です。新たにマスターからSuperAudio CDの為にデジタルマスタリングを行いました。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
「これほどまでに指揮者の強靱な意志に貫かれた演奏はめったにお目にかかれない」
「第5番はじっくりと落ち着いたテンポで曲の味わいを噛みしめるような演奏。ベルリン・フィルの清澄さも格別で、低弦の伸びやかな表情が印象的。力性と情感のバランスがよくとれている。」
『演奏家別クラシック・レコード・ブック 指揮者篇』音楽之友社 1987年
「ゆったりとしたテンポで、一音一音を確信に彫り進んだ《運命》は聴きもの。フリッチャイの強い意志がベートーヴェンの音楽と一つになって聴き手に迫ってくる。」
『ONTOMO MOOK 世界の指揮者名盤866』音楽之友社 2010年
「第7番をリズムの躍動、それにのみ中心に聴く人には多少はぐらかされた感じがするかも知れない。各楽章どれも遅めのテンポに扱われ、それ故に音楽的余裕が、全体を混濁させない歯切良さと色気とでも言いたいじっくりした味わいをもたらして、自ずと熱聴をさそう。楽器ごとの多様な旋律や動機の機能と表情を、フリッチャイは克明に、だがいとも自然に音で描き分けている。勢いのみに頼らない秀演である。」
『レコード芸術別冊 クラシック・レコード・ブック交響曲篇』音楽之友社 1985年
「第5番は、指揮者の強い意志の前に、楽団員も自然と昂揚し、テンポを速めようとする(とくに第4楽章)が、フリッチャイはそんな奏者の意志をもコントロールし、ベートーヴェンが書いた音のすべてを刻みつけようとする。これほどまでに指揮者の強靱な意志に貫かれた演奏はめったにお目にかかれない。この第5番にたどり着くための道程として第3番、第7番の録音がなされた、と考えれば、晩年のフリッチャイがベートーヴェンで掴み取ろうとした音楽的軌跡がよりわかりやすくなるのではなかろうか。ここでは、フリッチャイの音楽的な歩みを味わうためにも、収録年代順、すなわち第3番(1958年)と序曲2曲(1958年)、第7番(1960年)、第5番(1961年)の順番で演奏を愉しむことをお勧めしたい。フリッチャイが遺された時間と体力をもって、どのような偉業を成し遂げたのか、その軌跡がきっと多くの情報量とともに納得できるだろう。」
本作ライナーノートより 浅里公三氏
[収録曲]
■DISC 1
◇ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲 第3番 変ホ長調 作品55《英雄》
| [1] |
第1楽章:Allegro con brio |
| [2] |
第2楽章:Marcia funebre. Adagio assai |
| [3] |
第3楽章:Scherzo. Allegro vivace |
| [4] |
第4楽章:Finale. Allegro molto |
| [5] |
《レオノーレ》序曲 第3番 作品72a |
| [6] |
《エグモント》作品84 – 序曲 |
■DISC 2
交響曲 第5番 ハ短調 作品67《運命》
| [1] |
第1楽章:Allegro con brio |
| [2] |
第2楽章:Andante con moto |
| [3] |
第3楽章:Allegro – attacca: |
| [4] |
第4楽章:Allegro |
交響曲 第7番 イ長調 作品92
| [5] |
第1楽章:Poco sostenuto – Vivace |
| [6] |
第2楽章:Allegretto |
| [7] |
第3楽章:Presto - Assai meno presto |
| [8] |
第4楽章:Allegro con brio |
[詳細]
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:フェレンツ・フリッチャイ
| 録音 |
1958年10月6〜13日[交響曲第3番]
1958年9月29〜30日[序曲]
1961年9月15〜26日[交響曲第5番]
1960年10月3〜5日[交響曲第7番] |
| 初出 |
SLPM 138 038[交響曲第3番]1959年
SLPM 138 002/3[序曲]1958年
SLPM 138 813[交響曲第5番]1962年
SLPM 138 757[交響曲第7番]1961年 |
| 日本盤初出 |
SLGM 22[交響曲第3番]1960年
SLG M2/3[序曲]1959年
SLGM1107[交響曲第5番]1963年
SLGM 1073[交響曲第7番]1962年 |
| オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー]オットー・ゲルデス、ハンス・リッター、ハンス・ウェーバー
[レコーディング・エンジニア]ワーナー・ウォルフ、ギュンター・ヘルマンス |
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