『JOHNNY HARTMAN/I JUST DROPPED BY TO SAY HELLO』
不朽の名作『ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン』から約半年、名作に隠れながらも渋く光を放っていたジョニー・ハートマンの傑作です。バックはニューヨークの超一流ミュージシャンが務め、録音も高名なヴァン・ゲルダーと彼のスタジオでの収録。しっとりとソフトで深みのあるヴォーカルがオリジナル・テープからの新たなマスタリングで今ここに甦ります。
■エソテリックならではのこだわりのSuper Audio CDハイブリッド・ソフト
オリジナル・マスター・サウンドへの飽くことなきこだわりと、Super Audio CDハイブリッド化による圧倒的な音質向上で継続して高い評価をいただいているESOTERICによる名盤復刻シリーズ。発売以来決定的名盤と評価され、現代にいたるまでカタログから消えたことのない名盤をオリジナル・マスターから進化したテクノロジーと感性とによってDSDマスタリングし、世界初のSuper Audio CDハイブリッド化を実現してきました。今回はインパルス・レーベルの名盤から、アナログ時代を代表する名演・名録音をSuper Audio CDハイブリッドで発売いたします。
ソフトで優しく、どこまでも深い情感を湛える唯一無二の歌声
以前、エソテリックでもジャズの6枚組セット『impulse! 6 GREAT JAZZ』(ESSI-90133/38)の1枚としてリリースしたジャズ・ヴォーカル・アルバムの大傑作『ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン』。この名唱で一躍脚光を浴びた歌手ジョニー・ハートマンがその約半年後に吹き込んだのが『アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー』。ソフトで温かい彼の魅力的な個性が最高に発揮されている、ハートマンの代表作の一枚です。唯一無二とも言える魅力的なバリトン・ヴォイス。低音の表現力を軸において、メロディーを滑らかに歌ってゆくハートマンの歌声はソフトで優しく、どこまでも深い情感を湛えています。
そんなビロードのような肌触りを持つ、滑らかで柔らかく深みのあるヴェルヴェット・ヴォイスの持ち主ジョニー・ハートマン(1923年7月-1983年9月)はクルーナーと呼ばれる世界にジャンル分けされる男性シンガーです。ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、ペリー・コモなど名歌手がひしめくクルーナーは、ステージで大声を張り上げることなく、囁きかけるようなソフトな語り口が特徴的なスタイル。マイクロフォンやレコードの発達とともに多くのミュージシャンが輩出されたと言われているその世界の中でも、ジョニー・ハートマンは大編成オーケストラをバックに従えたポピュラー・シンガーたちとは一線を画した、ジャズのルーツにしっかりとした基盤を置く歌手でした。
一躍脚光を浴びたコルトレーンとの共作から半年後、ハートマンの真骨頂がここに!
コルトレーンとの共演作も含めインパルス・レーベルに吹き込んだ60 年代の作品を通してその実力が広く認められるようになり、幅広い評価と人気を得たジョニー・ハートマンは、65 年度のダウンビート誌国際批評家投票で男性歌手部門の“ニュー・スター賞”に輝きましたが、ニュー・スターといってもハートマンはすでに40 歳を過ぎていて、いかに彼が“遅咲きの名シンガー”であったかが示されています。
1923 年生まれ。40 年代の半ばからプロ・シンガーとして活動を始めていて、アール・ハインズ楽団やディジー・ガレスピー楽団で歌い、いっぽうでハートマンはジャズだけでなく、ポップなテイストをもった楽曲をいくつも吹き込みましたが、それらがヒットすることはなく、あくまでも知る人ぞ知るといった存在にとどまっていました。いくつかのレーベルでレコーディングが行われましたが、今日ではマニアの間で貴重盤扱いされているこれらの作品も、当時は大きな注目を集めることなく、60 年代初めまでのハートマンは鳴かず飛ばずといった状態が続いていたのです。
そんなハートマンが1963 年1 月、日本のジャズ・ファンの前に突然に姿を現します。当時のジャズ界はファンキー・ブームに沸き立っていて、その王者だったドラマーのアート・ブレイキーが“ジャズ・メッセンジャーズ”を率いて来日。そのときに同行したシンガーが、わが国ではまったく無名だったジョニー・ハートマンでした。このとき日本に来ていたハートマンにインパルスのプロデューサー、ボブ・シールから一通の電報が送られてきます。「ジョン・コルトレーンが貴方との共演アルバムを作りたいと言っているのだが、どうだろうか」という内容です。ジャズ界のトップ・アーティストとして最前線を走っていたコルトレーンからの直々のオファー。コルトレーンはアグレッシブな吹奏を繰りひろげるいっぽうで「バラード」などの名作も録音して、メロディーを内面的に深く掘り下げてゆくプレイに新たな世界を見出しつつあり、そんな演奏にハートマンの歌声が合うのではないかと考えたようです。オファーを受けたハートマンは“音楽性が合わないのでは?”と思ったそうですが、日本から戻ってジャズ・クラブ“バードランド”にコルトレーンを訪ねていって意気投合。前記の『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』が吹き込まれることになりました。その時のハートマンがあまりに素晴らしかったので、すぐに彼のリーダー・アルバムが企画され、半年後に吹き込まれたのがこの『アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー』でした。
バックのミュージシャンの卓越した理解とサポートによる極上のジャズ作品
ジョニー・ハートマンがポピュラー的なクルーナーではなく、ジャズに深く根ざしたアーティストである、という見解の背景にはバック・ミュージシャンの起用法も挙げられています。本作でもその説を立証するかのように、共演者は名だたる名手がそれを受け持っています。サックスのイリノイ・ジャケー(1922 年10 月-2004 年7 月)はJATPなどのセッションで太い音色と大向うから喝采を浴びるようなブローイングで評判になった奏者。前作共演のジョン・コルトレーンとは違ったタイプの奏者ですが、完成度のとても高かった前作を違うアプローチから乗り越えようとしたプロデューサーの意図でしょうか? ここでは歌を邪魔しない、それでいて楽曲にふくよかさをもたらす落ち着いたサポートに徹していてハートマンの魅力を見事に引き出しています。ケニー・バレル(1931 年7 月-)とジム・ホール(1930 年12 月-2013 年10 月)は当時、ウェス・モンゴメリーと並び、最も注目を浴びていたギタリスト。両者とも静かなオブリガートを中心にハートマンの歌声に呼応するかのように、曲に彩りを添える脇役を十分にこなしてますし、何と言っても注目したいのはピアノ、ベース、ドラムスのリズム・セクションです。ピアニスト、ハンク・ジョーンズ(1918年7月-2010年5月)は、20代でビ・バップ・ムーヴメントの渦中を体験、30歳でエラ・フィッツジェラルドの伴奏を担当し、後にハード・バップを始めとする激動の50年代をニューヨークで体感した大ヴェテラン。これ以上ないようなジャジーでモダンな洒落たバッキングでハートマンに寄り添いながら決して饒舌にはならない音でサポートをしています。ベーシスト、ミルト・ヒントン(1910年6月-2000年12月)もまた、数多くのセッションに参加している大ヴェテラン。ここでも的確で堅実な演奏を行っています。そしてドラマーはジョン・コルトレーンのグループで前作にも参加していたエルヴィン・ジョーンズ(1927年9月-2004年5月)。ピアニスト、ハンクの弟です。コルトレーンのグループでは物凄い咆哮のコルトレーンに対峙する強烈なドラミングが印象的でしたが、ここでは終始ブラシによる静かなサポートに徹していますが、その存在感は抜群。彼のスネアを擦り叩くブラシの音を聴いているだけでもワクワクしますし、その深いタイム感覚、これがハートマンの美しい歌声に一層のグルーヴ感を与えていることには間違いがありません。
全曲に漂う、語りかけるような表情、こまやかな表現力、さりげない節回しの上手さと気品
かつての恋人のもとへ“ちょっと挨拶したくて立ち寄っただけ…”と歌われるタイトル曲の「アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー」。そんなさりげない曲をジョニー・ハートマンが歌うと、別れてからの出来事、 tender な想いのようなものまでが膨らんで聴き手の心に届いてきます。まるで懐かしい一枚の写真を見るかのように、ソフトな表現の中から曲のもつ情景やストーリーまでが浮かび上がってくるハートマンの名唱です。これを筆頭に本作では、比較的地味なスタンダード・ナンバーが多く取り上げられていて、まさに“玄人好み”。しかしどの曲も親しみやすく、深い情感がハートマンの歌唱から伝わってきます。
ポピュラーな楽曲、冒頭の「シャレード」。ハートマンはあくまでも彼のペースでソフトな説得力をもつ歌声を聴かせていきます。「イン・ジ・ウィー・スモール・アワーズ・オブ・ザ・モーニング(夜は更けて)」はフランク・シナトラなどが歌っていたものの、ハートマンの深く沈んでゆくような歌唱もじつに味わい深いものがあります。デューク・エリントンの「ドント・ユー・ノウ・アイ・ケア」や、軽いラテン・リズムに乗った「ハウ・スウィート・イット・イズ・トゥ・ビー・イン・ラヴ」などは、めったに歌われることのないナンバーで、やはりハートマンは心を込めて豊かな情感とともに表現してみせます。「スリーピン・ビー」「キス・アンド・ラン」「ドント・コール・イット・ラヴ」のようなメディアム・テンポの曲も含まれますが、語りかけるようなハートマンの表情は変わりません。こまやかな表現力、さりげない節回しの上手さ、限りなくロマンティックでありながらも甘さに流れることのない気品を感じさせるのが、ハートマンならではの美質と言っていいでしょう。
新マスタリングでサウンドは一変、多彩な声のニュアンスに耳を傾けてください
本作は60年代の名盤ですが、Super Audio CDハイブリッド化は今回が初めて。新たにマスターからSuper Audio CDの為にリマスタリングを行いました。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
新たにマスタリングされたサウンドは細部まで克明にマスターから音を引き出すことが出来ました。全体に音の密度がかなり上がっていて、どの楽器も引き締まり、かつ多彩な表情・音色を味わう音に仕上がっています。冒頭の「シャレード」次の「イン・ジ・ウィー・スモール・アワーズ…」のギターを聴いてみるだけでも、それは一目瞭然。ジム・ホールとケニー・バレルの音色…、その違いがはっきりと聴き取れます。両者の右手のタッチが克明に記されていて、ピッキングの様が目で見えるようです。ピアノのタッチも明瞭になり、ベースもサポートに徹しているものの、クッキリと音程もしっかりし、控えめながら存在感も十分。そしてドラムス。絶妙な音量バランスは変わらないが、存在感が数倍増しています。ブラシで叩き擦るスネアの音は見事に引き締まり、両手それぞれの違った動きが感じられます。ドラムセットの大きさが見えるようだし、シンバルのスタンドもしっかりした金属製だろう、というイメージがしてくるようなリアリティが生まれてきました。イリノイ・ジャケーのサックスもサックスの朝顔から吹く息が漏れてくる気がします。そして何より一番惹かれたのはハートマンの歌声です。ソフトで柔らかい歌声、と思っていたその響きに一層の深みが加わり、かつ喉の鳴り、張りのある部分など、多彩な声のニュアンスが秘められていたことに気付かされた次第です。「深みのあるバリトン・ヴォイス」という意味が納得できるサウンドになり、1960年代, ステレオ録音がジャズの世界でも安定して行われるようになった時期の、秀逸なジャズ・ヴォーカル・レコーディングのマスターからの忠実な再現がここに完成しました。
従来のCDと比べると、いっそうステージの奥行きが感じられて、ハートマンとバック・バンドの立ち位置がくっきり浮かび上がってくる
「バックも錚々たる顔ぶれ。「イフ・アイム・ラッキー」での絶妙なヴォイス・コントロールとリリシズムは、ハートマンならではのもの。シナトラの名唱でも知られる「イン・ジ・ウィー…」でのさりげないルバートで示されるみずみずしさ。聴き込めば聴き込むほどに、美しい情感がにじみ出てくる隠れた名作だ。」
『ヴォーカリスト』ONTOMO MOOK・音楽之友社・1994年
「ハートマンのヴォーカルは華やかでも派手でもないのだが、まさに独特のすばらしい魅力がある。ハートマンはクルーナーとしてそのスタイルをとりながら、ソフィスティケートされたブルース感覚と知的なコントロール、 tender なセックス・アピールとこまやかなニュアンスのあるヴォーカルに独自の魅力を生み出した。ここでハートマンは名手たちと共演し、スタンダードや新曲など彼好みの佳作を歌っている。リラックスした快い雰囲気、ロマンティックな情感たっぷりの表現であり、ワルツ調の「シャレード」をラテン・リズムに乗せるなど、アプローチの工夫もスマートだ。大ブロウ熱演で有名なイリノイ・ジャケーが、ここでは控えめなプレイでハートマンをよく盛りたてていることもおもしろい。」
旧ディスクのライナーノートより
「オリジナル・テープから新たに丁寧なマスタリングがほどこされた本Super Audio CDハイブリッド盤は、ハートマンのボーカルはもちろんのこと、バック・メンバーの音の分離も良く、程よいバランスをもって響いてくる。楽器音の明瞭さは冒頭曲のイントロ部分のギター(ジム・ホール)の音色を聴いただけでも明らか。従来のCDと比べると、いっそうステージの奥行きが感じられて、ハートマンとバック・バンドの立ち位置がくっきり浮かび上がってくる。まるでクラブでハートマンのライブを聴いているかのようにリアリティをもって心地よい気分に浸ることのできるのが、このSuper Audio CDハイブリッド盤。ハートマンの持ち味を最良の形で、じっくりと楽しむことのできるものになっている。」
本作ライナーノートより
[収録曲]
JOHNNY HARTMAN / I JUST DROPPED BY TO SAY HELLO
ジョニー・ハートマン / アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー
| [1] |
シャレード CHARADE (Henry Mancini, Johnny Mercer) |
| [2] |
夜は更けて IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING (Bob Hilliard, David Mann) |
| [3] |
スリーピン・ビー SLEEPIN' BEE (Harold Arlen, Truman Capote) |
| [4] |
ドント・ユー・ノー・アイ・ケア DON'T YOU KNOW I CARE (Mack David, Duke Ellington) |
| [5] |
キス・アンド・ラン KISS & RUN (Jack Ledru, Rene Denoncin, William Engvick) |
| [6] |
イフ・アイム・ラッキー IF I'M LUCKY (Josef Myrow, Eddie DeLange) |
| [7] |
アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー I JUST DROPPED BY TO SAY HELLO (Sid Feller, Rick Ward) |
| [8] |
ステアウェイ・トゥ・ザ・スターズ STAIRWAY TO THE STARS (Matty Malneck, Mitchell Parish, Frank Signorelli) |
| [9] |
アワー・タイム OUR TIME (Stanley Glick) |
| [10] |
ドント・コール・イット・ラヴ DON'T CALL IT LOVE (Ronnell Bright) |
| [11] |
ハウ・スウィート・イット・イズ・トゥ・ビー・イン・ラヴ HOW SWEET IT IS TO BE IN LOVE (Danny DiMinno, George Cardini) |
| [12] |
パノニカ |
| [13] |
マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ |
[詳細]
ジョニー・ハートマン (vo) / Johnny Hartman, Vocal
ハンク・ジョーンズ (p) / Hank Jones, Piano
イリノイ・ジャケー (ts) / Illinois Jacquet, Tenor Saxophone
ケニー・バレル (g) [2-5, 7-11] / Kenny Burrell, Guitar
ジム・ホール (g) [1, 6] / Jim Hall (Guitar)
ミルト・ヒントン (b) / Milt Hinton, Double Bass
エルヴィン・ジョーンズ (ds) / Elvin Jones, Drums
| 録音 |
1963年10月9 & 17日、ヴァン・ゲルダー・スタジオ、イングルウッド・クリフ、ニュージャージー州 |
| 初出 |
Impulse! A-57 (1964年) |
| 日本盤初出 |
Impulse! SH-3033 (1964年) |
| オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー] ボブ・シール
[レコーディング・エンジニア] ルディ・ヴァン・ゲルダー
[Super Audio CDプロデューサー] 吉田穣(エソテリック・マスタリング・センター)
[Super Audio CDエグゼクティブ・プロデューサー] 大間知基彰(エソテリック・マスタリング・センター)
[Super Audio CDリマスタリング・エンジニア] 東野真哉(エソテリック・マスタリング・センター)
[Super Audio CDリマスター] 2026年6月 エソテリック・オーディオルーム、「Esoteric Mastering」システム |
| 解説 |
岡崎正通 野澤龍介 |
| 企画・販売 |
ティアック株式会社 |
| 企画・協力 |
東京電化株式会社 |
※製品の仕様、外観などは予告なく変更されることがありますので、予めご了承ください。