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耳はトレーニングで鍛えられる
イギリス人とアメリカ人の平均的な体格は、誰が見てもわかるくらい違います。それは、イギリス人が、アメリカに渡り異なる風土や環境、食生活の違いに対応してアメリカ人になったからなのです。しかし、体格のみならず「英語」もアメリカで「米語」に変化し、異なる言語になったことは、あまり知られていないようです。
20世紀最高の言語学者の一人である「アルフレッド・トマティス博士」の研究によれば、地域や気候による「空気の音響インピーダンス(音の伝わり方)」の違いによって、言語はより聞き取り易い「音」を選んで変化(進化)すると説明されています。また、温かい地域では「大きな息づかい」で話すことが出来ますが、寒冷地では呼吸により体温が奪われるため「小さな息づかい」で話さなければなりません。このような様々な理由から、同じ言語であっても、異なる環境や地域で使われるようになれば、数世代を経ずして「まったく異なる音響パターン(周波数分布)を持つ言語」に変化してしまうのです。
そして、その言語を使う人種の聴覚は、「言語の音響パターンに、フォーカスを合わるようにチューニング」されて行きます。それは砂漠や草原に住む人種の目が、我々都会人とは異なり遠くのものを非常にハッキリみられるようになっているのと同じです。もちろん、言語別のパスバンドが異なるといっても、人種別の「ハードウェアーとしての耳」の構造には、それほど大きな差があるわけではありませんから、チェックCDなどの正弦波の聞き取りでは、これほど大きな人種差は顕れず、ほとんどの人種が「20−16KHz」の広い範囲を「聞き取る」ことが可能です。
では、一体何が音の聞き取りを制限したり、耳をチューニングしているのでしょう?
それは、「脳の働き」です。「耳というハードウェアーの能力」に差がなくとも、「耳がとらえた情報を分析しているソフトウェアー(脳)」の周波数帯域が狭ければ、音は聞こえないのです。耳がマイクロフォンなら、脳はマイクロフォンアンプとお考え頂ければ、わかりやすいと思います。下の表は、言語別の「聞き取りに使用される周波数バンド(パスバンド)」を示していますが、日本人の聞いている周波数は、僅か「125−1500Hz」という狭さで、世界の音楽をフェアに聴き取れる「国際耳」になるためには、そのままでは不十分なことが理解できます。また、生産国によってオーディオ機器の音が違うのも、人種による「聞こえ方の違い」が影響しているのかも知れません。
「楽器を演奏する人は耳がよい」といわれますが、それは、楽音を集中して聞くことで聴覚(脳)の処理できる周波数帯域が、普段会話(言語)で使用する帯域よりも広がった結果です。しかし、漫然と楽器を弾くのではなく、常に広い周波数で音を聞き分けようと努力しようとしなければ、耳はよくなりません。
ハードウェアとしての「耳」と、それを情報として作り出す「脳」の連携で私達は音を聞いています。この連携を鍛えることで耳はどんどん良くなります。必要な音に瞬時にフォーカスすることを「脳」に覚えさせましょう。老化で「耳」は衰えます。20才までなら18kHZまで聞けた高い音が、60才を超えると10kHz程度までしか聞こえなくなります。けれど普段から耳をトレーニングしていれば、音楽や音の聞き分けは、60才を超えても衰えることはありません。むしろトレーニングをしていない20才の若者よりも、より精密に音を聞き分けることができるのです。著名な音楽家は、晩年によい演奏を残しますが、これは人間的な経験を良い音で音楽に変えられる「耳」が衰えていないからです。プロの演奏家やオーディオ技術者は、自分の耳を鍛えるための方法を学び、トレーニングを怠らないことが大切です。
「耳」はトレーニングで聞こえ方がかわります。特に言語の帯域が狭い日本人は、より広い周波数帯域の音を「関連付けて聞き分ける」ためには、トレーニングが必要です。オーディオ機器の仕上げは、人間がそれを聞いて仕上げる以外の方法はありません。
「トレーニングを積まない日本人に聞こえている範囲の音」だけでは、「オーディオ機器の音を正確に聞き分けてチューニングする」ことは不可能です。また、どれほど高性能な測定器も音の善し悪しの基準とはなりません。データー重視で作られたオーディオ機器の音質は人に感動を与えません。だから、音を決める立場のオーディオ・エンジニアやオーディオ・マニアには、「音を聞き分けるトレーニングをしないまま、自分勝手に音をチューニング」する危険性を覚えておく必要があります。