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音の細かさと、音色の鮮やかさの関連について
この問題は、オーディオファンが必ず直面する「大きな壁」だと思います。原因は、「今まで聞こえなかった、細かな音まで聞こえる方が音が良い」という考え方にあります。このような音作りは、国産品に多いのですが、ここに大きな落とし穴があります。この問題を「風景の記録」にたとえて説明します。
目の前の「風景」記録するとき、「写真」と「絵画」の2つの方法があります。「写真」は、あるものをあるがままに記録します。「絵画」は、必要なものと、そうでない物を、画家が判断し取捨選択して描かれます。どちらが「それらしい雰囲気を醸し出せるか?」と言うことであれば、間違いなく「絵画」です。
「写真」をご存じの方なら「ポートレート」を撮影するときに、望遠レンズを使って「背景をぼかす」技法をご存じだと思います。これは、あえて「不必要なものの情報を弱める(背後をぼかす)」ことによって、「必要な情報(人物)」をクローズアップするためです。
音楽の演奏も風景画と同じで「主役」と「脇役」があります。それぞれが「喧嘩」せず、「それぞれを引き立てる」からこそ、美しい「ハーモニー」が生み出されるのです。
オーディオセットの「音質」もそれと同じです。「本当はそれほどハッキリとは聞こえなくても良い音」を「ハッキリと聞こえるようにしてしまった」ことによって、演奏全体のバランスが崩れ、音楽的な深みや完動が薄れてしまったのです。
オーディオ機器には、「ジャス向き」、あるいは「クラシック向き」と呼ばれる製品があります。音の粒子が荒いと音にメリハリが出ます。音の粒子が細かくなると、音のメリハリがなくなります。
一番左の画像を細かくすると(左から2枚目)、画像のメリハリが失われたことが分かります。一つずつの模様は細かくなりましたが、コントラスト感(それぞれの模様のクッキリした感じ)が低下して、全体にぼんやりと力のない画像に変化しました。国産のオーディオ製品が「音は細かく聞こえるのに音楽の力がなくなった」、あるいは「音の広がりに立体感が無くなって平面的になった」と感じられるのは、このような状態です。
右の画像は、左の画像の「輪郭を強調した」ものです。色の濃さは変えていませんが、一つ一つの模様がハッキリして「絵に力」が出て来ます。一つずつの「模様」が浮き上がって見えますが、画像の奥行きが浅くなっています。
音の輪郭を強調して、細かい音を聞こえるようにすると、音がハッキリし、パワー感もでてきますが、全体的に音が前に出て「奥行き(立体感)」が失われます。このような音では、体を包み込まれるような音場の広がりが得られません。
ロックやポップスには向きますが、クラシックが上手く鳴りません。国産品にありがちな傾向の音です。
右の画像は、輪郭を強調せず、カラーコントラストを上げたものです(一番右は輪郭を強調した画像)。
模様がクッキリし、さらに色合いが鮮やかになっています。輪郭を強調した画像に比べ「絵の力」はさらに向上します。
ここで、一番右の画像の「朱色の丸」と中央画像の「同じ模様」を見比べて下さい。朱色の丸が「浮き出て」見えることが分かります。輪郭を強調するのではなく、カラーコントラストを上げる(楽器の個性や特長をしっかり再現する)ことで、メリハリや力強さと同時に、前後方向への広がり(前に出る模様と、後ろに下がる模様)の差も明確になりました。
音質改善で目指すのも同じです。音の輪郭を強調して音を細かくするのではなく、それぞれの音の個性や特長をより明確に再現する(音色を鮮やかに再現する)ことが大切です。
同じ処理を風景写真で行ってみました。左がオリジナル、中央が輪郭強調、右がコントラスト強調です。この画像では判断が難しく、中央が良くなって見えます。けれど画像としての奥行き感や、雰囲気感は右が良く出ています。
一聴して「細かい音まで音がハッキリ聞こえるシステム」に私たちは耳や心を奪われがちです。しかし、一つずつの音は「音楽のパーツ」に過ぎず、重要なのは「全体のバランス」あるいは「演奏の流れ」です。それぞれの音が正しく組み合わさり、美しく「融合」したとき、「感動的な音楽の全体像」が見えてくるのです。
特定のディスク、特定の楽器の音で「システムの善し悪し」を聞き比べていませんか?
一つずつの音がハッキリと聞こえるようになったのに、音楽がつまらなくなってしまった。その原因は「全体像が見えなくなった」ためです。オーディオセットの音質バランスを改善し、音楽を楽しく聞くためには「音の純粋性=一つ一つの音の明瞭度」をあえて追求しない勇気が時に必要です。そのためには「特定のディスクの特定の音だけに注目して音の良否を判断する」ことは、避けるべきです。
聞こえてくる「音のバランスの良否」や「違和感のあるなし」で音質の判断をするのが賢明です。
一枚のディスクから、より深い音楽的感動引き出し、音楽をより意味深く味わうための「音質改善の方法」は、システムやその環境に応じて千差万別です。オーディオとは自分にとっての「最良」を見いだすための、知的な冒険です。
とは言え、音を聞き分けるときに何らかの「指標」は必ず必要です。最初は「原音と再生音の比較」から始めましょう。楽器を演奏する人ならば、よく知る楽器の音を聞き分ければよいのですが、日本人は、普段「生の楽器の音」に触れる機会が少なく、それができない場合があります。そのようなときは、次のディスクを使って下さい。
オーディセットを買い替えたり、あるいはセッティングを変えたとき、音は良くなっているはずなのに「日頃聞いている音楽が、前よりも楽しく聞こえなくなった」、「長時間聞いていると、なんとなく疲れる、飽きる」、逆に「特定の楽器や妙によく聞こえる」、などと感じられたら「注意信号」です。
また店頭での試聴時に、「このツィーターはよい!」、「このアンプはよい!」、などと特定の機器の音に「惚れてしまう」のも、「注意信号」です。
本当に良い音とは、「ステレオ装置の存在感」が完全に消えてしまいます。試聴時に機器ではなく「音楽に興味を感じたら」その装置の音楽表現は間違いなく優れています。音ではなく、音楽が伝わる音質を目指しましょう。