心の奥に深く染み入るピリスのシューベルト。
ESOTERICならではのこだわりのSuper AudioCDハイブリッド・ソフト
オリジナル・マスター・サウンドへの飽くことなきこだわりと、Super AudioCDハイブリッド化による圧倒的な音質向上で確固たる評価をいただいているESOTERIC名盤復刻シリーズ。
発売以来LP時代を通じて決定的名盤と評価され、CD時代になった現代にいたるまで、カタログから消えたことのない名盤を高音質マスターからDSDマスタリングし、世界初のSuper AudioCDハイブリッド化を数多く実現してきました。
昨年発売したモーツァルトのピアノ・ソナタ集に続き、ポルトガル出身の名ピアニスト、マリオ・ジョアン・ピリス(1944年リスボン生まれ)の極め付きともいえる、シューベルトの「即興曲集」が当シ リーズに登場です。
ピリスがモーツァルトと並んで得意としたシューベルト
小柄で手も小さいピリスが何よりも得意としたのはモーツァルトのピアノ・ソナタと協奏曲でしたが、それらと並んでピリスが愛奏したのがシューベルトのピアノ曲でした。ピリスは1970年代後半から80年代 前半にかけて病を得て演奏・録音活動の中断を余儀なくされましたが、演奏活動再開後手掛けたエラート時代の一連の録音の中に、モーツァルトなどと並んで含まれていたのがシューベルトで、1985年 〜87年にかけてソナタ第18番・第21番や4手のための作品集などを録音し、さらに1989年のドイツ・グラモフォン移籍後、モーツァルトに続いて取り組んだのもシューベルト(ピアノ・ソナタ第14番、楽興の時)でした。
文学に触発された名演
今回Super AudioCDハイブリッド化される「即興曲集」は、1997年、シューベルト生誕200年を記念して、 ピリスがヨーロッパ各地で演奏し、新鮮な解釈として高く評価されたもの。もともとフランスの著名な作家イヴ・シモンの小説の世界にシューベルトを見出したピリスが、その小説の題名である「すばらしい旅人」というタイトルでまとめた2枚組のアルバムに、「アレグレットハ短調」、「3つのピアノ曲」とともに収録されていたものです。またこのアルバムは「自分は旅人である」という言葉を残した名ピアニスト、リヒテルの思い出にも捧げられ、ピリスによるシューベルト=旅人、という一つの世界に織り上げられたものでした。2002年には即興曲集のみが1枚にまとめられ、それ以来これらの作品における定番としてカタログから消えたことがありません。
自然体で描き出されるシューベルトの抒情
粒ぞろいの美音と、過度にならない自然なニュアンス付け、豊かでふくよかな充実した響きによるピリスのシューベルトは、歌謡性のみに傾くのでもなければ、哲学的思索性に頭を埋めるものでもなく、作品に込められた抒情の美しさを極めて自然体で表現したものといえるでしょう。過度に感情的な身振りを持ち込まず、むしろストイックなまでに緻密なコントロールを聴かせつつも、決して堅苦しくない雰囲気を持つ演奏は、音楽や作曲家に対して常に真摯な姿勢で臨んできたピリスの人柄を反映しているかのようです。2018年末をもって公開の演奏活動からは身を引き、後進の指導に専念しているピリスですが、この「即興曲集」は、彼女にとってドイツ・グラモフォンへの最後の録音となった同じシューベルトのピアノ・ソナタ第21番と並んで、誇張のない表現の中から滲み出す味わい深さを身上としたこの名ピアニストのかけがえのない貴重な遺産ともいうべき名演です。
最高の状態でのSuper AudioCD ハイブリッド化が実現
録音はオランダのハールレムにあるコンセルトヘボウ(現フィルハーモニー・ハールレム)とリスボンのパラシオ・デ・ケルス(ケルス国立宮殿)という異なる会場で収録されました。前者は19世紀末に建立され、収容人員は1,200名を超すホールであり、後者は18世紀に建てられ「ポルトガルのヴェルサイユ」と称される宮殿内で収録されています。1980年代以降のドイツ・グラモフォンのメイン・エンジニア/プロデューサーの一人、ヘルムート・バークによる音作りは、録音会場の差異を感じさせず、ピリスをごく親密な空間で聴いているかのようなイメージを与えてくれるもので、作品と演奏の本質に相応しい見事なエンジアリングです。もともとが優秀なデジタル録音であり発売以来特にリマスターが施されたことはなかったため、今回は初めてのDSDリマスタリングとなります。今回のSuper AudioCDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターテープの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。特にDSDマスタリングにあたっては、DAコンバーターとルビジウムクロックジェネレーターに、入念に調整されたESOTERICの最高級機材を投入、またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を余すところなくディスク化することができました。
■「実に見事に整った即興曲集」
「実に見事に整った即興曲集だ。音楽が厳しい美しさに貫かれ、演奏がそれを十全に出しているのだから、それ以上の衣裳は邪魔というもの。シューベルトって30代で死んでいるのに、そうしてこんな絶望にとらえられてしまったのだろう。ピリスの演奏の良さは、その絶望感や悲しさを、深く追い詰めようとはしないところにある。なるほど詩を書けばこういう効用があるのか。ぎりぎりのところで鮮やかな足取りが維持され、深遠のこちら側に美がとどまる。」
(『ONTOMOMOOKクラシック名盤大全器楽曲編』、1998年)
「ピリスはシューベルトの音楽世界を感覚的に捉えてよしとするのではなく、それを完全に自身の血肉と化した演奏を心掛けているようだ。この《即興曲集》は、シューベルトに内在している”歌“を、ピリスが慎み深く歌い上げた演奏の典型である。スリムな外見を支えているピリスのヒューマンな感情。それが聴き手の心を満たしてくれる。小粒ながらピリリとした演奏がピリスの身上。その持ち味がたっぷり楽しめる。」
(『クラシック不滅の名盤1000』、2007年)
収録曲 / 詳細
フランツ・シューベルト
●4つの即興曲D.899(作品90)
[1] |
第1番:ハ短調 アレグロ・モルト・モデラート |
[2] |
第2番:変ホ長調 アレグロ |
[3] |
第3番:変ト長調 アンダンテ |
[4] |
第4番:変イ長調 アレグレット |
●4 つの即興曲D.935(作品142)
[5] |
第1番:へ短調 アレグロ・モデラート |
[6] |
第2番:変イ長調 アレグレット |
[7] |
第3番:変ロ長調 主題(アンダンテ)―変奏I〜V |
[8] |
第4番:へ短調 アレグロ・スケルツァンド |
詳細
録音 |
1996年7月、オランダ、ハールレム、コンセルトヘボウ(D.899)
1997年9月、ポルトガル、リスボン、パラシオ・デ・ケルス(D.935) |
初出 |
457 550-2 (1989 年) |
日本盤初出 |
POCG10068〜9(1997年12月21日、アレグレットハ短調 D.915、3つのピアノ小品 D.946とのカップリングによる2 枚組) |
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