明晰な解釈に裏付けられた、生き生きと躍動するガーディナーのヘンデル。
ピリオド楽器演奏によるスタンダードを打ち立てた名盤・名録音、世界初のSuper Audio CD化実現。
CD時代に爆発的に普及したピリオド楽器によるバロック音楽演奏
20世紀後半のオリジナル楽器演奏の興隆は、音楽学の発展のみならず、同時期のLPレコードやステレオ録音の開発・普及と密接に結びついていました。個性的な響きを持ちながらもどちらかというと繊細で音量も小さいオリジナル楽器の魅力は、大きな空間の演奏会場で接するよりも、クリアでより忠実度の高い録音という手段を用いることでより直接的に体感できたからです。レオンハルト、アーノンクール、ブリュッヘンら1950年代から活動を始めた第1次世代はLPレコードの普及とともにその名を広め、さらにデジタル録音が開発されCDというメディアが登場する1970年代後半からは、ピリオド楽器第2世代ともいうべき新たな演奏家たちが台頭しました。中でもイギリスでは、20世紀前半のアーノルド・ドルメッチのピリオド楽器運動に端を発し、ネヴィル・マリナーの右腕としてバロック音楽の普及に貢献した音楽学者サーストン・ダートやリコーダー奏者デイヴィッド・マンロウの活躍によってピリオド楽器演奏についての素地が固められ、その中で新しい世代ともいうべきピリオド楽器演奏家が次々と登場したのです。トレヴァー・ピノック、クリストファー・ホグウッドと並び、「イギリス古楽界の三羽烏」とも称されたジョン・エリオット・ガーディナー(1943年4月20日生)もその代表的な一人です。
スペシャリストの枠を超えたガーディナーの広範な音楽活動
ヘンデルはモンテヴェルディ、バッハとともに、ガーディナーが最も積極的に取り上げてきた作曲家であり、録音面でも1976年にエラート・レーベルへの《ディキシット・ドミヌス》を皮切りに、声楽曲、オラトリオ、歌劇などをアルヒーフ、フィリップスとレーベルを横断して続々と発表し、明敏にして爽やかな生命力にあふれた演奏を成し遂げ、従来のヘンデル演奏にはなかった新鮮さが世界的に高く評価されるようになりました。1980年には《水上の音楽》の第1回目の録音をエラートから発売して管弦楽曲への取り組みも開始し、1983年には当ディスクに収録された《王宮の花火の音楽》を珍しい二重協奏曲との組み合わせでフィリップスからリリース。さらに1991年にはやはり当ディスク収録の《水上の音楽》の2回目の録音を実現させています。
壮麗なヘンデルの代表作
《水上の音楽》と《王宮の花火の音楽》は、ヘンデルのロンドン時代の代表作であり、いずれもイギリス王室の行事と密接に関連をもって作曲されたため、華やかでヴァラエティに富んだオーケストレーションが魅力。演奏については学者や指揮者によってさまざまな形がとられていますが、ガーディナーは、今日一般的なベーレンライターのハレ・ヘンデル全集版に準拠しています。《水上の音楽》では、オーケストラにホルンが使われたイギリスで最初の例である第1組曲→フルートとリコーダー、弦楽合奏による第3組曲→ホルンとトランペットが加わる華麗な第2組曲の順で演奏しており、さらに第1組曲の前後に、3つの組曲とは別に補遺として収められてる異稿(初期稿)を2曲加えているのが特徴です。野外での軍楽演奏の習慣に則って打楽器と管楽器のみで構想・初演されたと言われている《王宮の花火の音楽》は、弦楽パートを加えた形で演奏しています。ガーディナーらしく学術的根拠に裏付けられ、さまざまな舞曲を含む各曲の多彩な魅力を生き生きと開示させつつも、端正な趣きを崩さない演奏解釈は、文字通りピリオド楽器による一つのスタンダードを打ち立てたのです。
深みのある艶やかな響き
《水上の音楽》は、フィリップス録音には珍しく、アビーロード・スタジオで収録されていますが、ヘルヴェック(プロデュース)+スコルツェ(エンジニア)という日本でも小澤征爾=サイトウ・キネンの録音でたびたび来日してよく知られた名コンビが手掛けたということもあるのか、このスタジオにしては深みのある艶やかな響きが耳をひき、その8年前にウォルサムストウ・アセンブリ・ホールで収録された《王宮の花火の音楽》に引けを取らない音作りが見事です。オリジナル楽器の個性豊かな響きのイメージも見事に捉えられており、エリザベス・ウィルコックとアリソン・バリーが率いる弦楽セクションの雄弁さ、フルートのリサ・ベズノシウクやホルンのアンソニー・ハルステッドらの名手を揃えた管楽パートのヴィルトゥジティを手に取るように味わうことができます。CD時代の優秀収録ということもあって今回が発売以来初めての本格的なリマスターということになり、Super Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターテープの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業が行われています。特にDSDマスタリングにあたっては、D/Aコンバーターとルビジウムクロックジェネレーターとに、入念に調整されたESOTERICの最高級機材を投入、またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を余すところなくディスク化することができました。
■『ガーディナーの美質が最大限に発揮された90年代初期の名盤』
「《王宮の花火の音楽》は弦を加えた演奏だが、オリジナル楽器の特色ともいえる管弦の音色の融合が、この曲の場合まことに適切で、作品のおおらかな曲趣をよく表している。」
『レコード芸術別冊・クラシック・レコード・ブック VOL. 2 管弦楽曲編』1985年
「オリジナル楽器の音色的な特徴もかなりよく捉えられている。感覚的にも現代人の心を十分に捉えることができる新鮮さを持っている。それにオリジナル楽器を使っていても、ここで近代的な生き生きとした表現や速めのテンポが大きな特徴となっている。」
『レコード芸術別冊・クラシックCDカタログ ’89(前期)』1989年
「細部にこだわり、配慮が行き届いているにもかかわらず、全く活気が失われない。というより細かい配慮が活気を生み出している。ヘンデルの名人芸、バロックの極意は、音楽を高々と奏でることにあったのかもしれない。そう思わせる、いわば視覚的な演奏だ。」
『レコード芸術別冊・クラシック名盤大全 VOL. 2 管弦楽曲編』1998年
「ガーディナーの指揮盤は、ピリオド楽器を用い、奏法についても熟慮を重ね、ディテールまで細かく作りこんだアンサンブルが展開されている。それでいながら、もともとは、舟遊びや花火の機会音楽といて作曲されたという由来が納得できるように、人々に楽しんでもらおうという活気にあふれている点も好ましい。さらに、1曲目に配した《水上の音楽》は、いきなり追補曲でスタートするなど、同曲異演盤の中でも、一味も二味も異なる存在感を主張。ハレ版による第1組曲が終わった後に、さらに追補曲を1曲収録するといった配慮もされている。《王宮の花火の音楽》は、再演版の管弦楽版を用い、確信に満ちた音楽が収録されている。」
『ONTOMO MOOK クラシック不滅の名盤1000』2007年
「こんな風に演奏すれば、川の上だろうが海の上だろうが、十分に聴こえ、楽しめるのではないだろうか。つまりこれが《水上の音楽》の正しい演奏というものだろう。そう思えてきてしまうのが、このころのガーディナーの演奏だった。大変な活力が伝わってくる演奏だ。そうか、バロックは過去の既に生気を失った音楽ではなく、このように演奏してこそ面白いのだと、声高に語っているかのよう。ガーディナーははしゃぎまくるヘンデルを捉えた。」
『ONTOMO MOOK 最新版 クラシック名盤大全 交響曲・管弦楽曲(上)』2015年
「《水上の音楽》は第1番、3番、2番の順で収録されているが、序曲ではなく、金管が活躍する華やかな第1番の補遺のヴァリアントが置かれているのがよい。明るく弾けるような気分にさせてくれるからだ。演奏の質は非常に高く、イギリス的なスマートさとブリリアントな高揚感がある。同時にバロック音楽に欠かせない鮮やかなビート感が爽快。《王宮の花火の音楽》も然り。ガーディナーの美質が最大限に発揮された90年代初期の名盤。」
『ONTOMO MOOK 最新版 クラシック不滅の名盤1000』2018年
収録曲 / 詳細
ジョージ・フリデリック・ヘンデル(1685〜1759)
水上の音楽
王宮の花火の音楽
イギリス・バロック管弦楽団
オリジナル楽器使用
指揮:ジョン・エリオット・ガーディナー
[1] |
水上の音楽
追補
11. 表示なし(異稿 へ長調 HWV331/1) |
[2] |
組曲 第1番 へ長調 HMV348
1. 序曲 |
[3] |
2. アダージョ・エ・スタッカート |
[4] |
3. アレグロ |
[5] |
4. アンダンテ |
[6] |
3. 表示なし(da capo) |
[7] |
5. プレスト |
[8] |
6. エア |
[9] |
7. メヌエット |
[10] |
8. ブーレ 9. ホーンパイプ |
[11] |
10. 表示なし |
[12] |
追補
12. アラ・ホーンパイプ(異稿 へ長調 HWV331/2) |
[13] |
組曲 第3番 ト長調 HMV350
16. 表示なし |
[14] |
17. リゴードン
18. 表示なし |
[15] |
19. メヌエット
20. 表示なし |
[16] |
21. 表示なし
22. 表示なし |
[17] |
組曲 第2番 ニ長調 HMV349
11. アレグロ |
[18] |
12. アラ・ホーンパイプ |
[19] |
13. メヌエット |
[20] |
14. ラントマン |
[21] |
15. ブーレ |
[22] |
王宮の花火の音楽 HMV351
第1曲 序曲 |
[23] |
第2曲 ブーレ |
[24] |
第3曲 ラ・ペ(平和) |
[25] |
第4曲 ラ・レジュイサンス(歓喜) |
[26] |
第5曲 メヌエット I - II |
詳細
録音 |
水上の音楽:1991年2月、ロンドン、アビーロード・スタジオ
王宮の花火の音楽:1983年6月15日〜16日、ロンドン、ウォルサムストウ・アッセンブリー・ホール |
初出 |
水上の音楽:434 122-2
王宮の花火の音楽:411 122-1(LP)411 122-2(CD) |
日本盤初出 |
水上の音楽:PHCP5115(1993年2月25日)
王宮の花火の音楽:28PC5034(LP)40CD49(CD 1984年7月21日) |
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