カラヤンとベルリン・フィルが到達した至高のR.シュトラウス・ワールド
音楽ソフトの概念を変えたカラヤン
ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908〜1989)は、録音や映像という音楽ソフト制作に終生変わらぬ情熱を持って取り組み、それらを演奏会の代用品という位置づけから、大量生産と消費が可能な芸術作品へと押し上げた人物でした。 録音方式は1930年代後半のSP時代から1980年代のデジタル録音まで、映像は1950年代のフィルム撮影から1980年代のビデオ収録まで、常に最新鋭の技術革新を採り入れながら自らのレパートリーを新しいフォーマットで上書きしていったカラヤンですが、 特に1970年代後半から世界的に実用化されたデジタル録音技術、そしてその延長線上でフィリップスとソニーが開発したコンパクトディスクについては、1981年4月、ザルツブルクで記者発表を開いてこの新しいメディアのプロモーションを買って出たほど積極的に支持。 その姿勢が広く報道されることがCDというデジタル・メディアがLPに変わって普及していく上で大きな追い風となったのでした。当シリーズでもカラヤンのアルバムは何度も取り上げてきており、 R. シュトラウスの作品集もこれまでオペラ全曲盤2つを含む5点のリマスター盤を発売してまいりました。
生涯をかけて取り組んだR. シュラウス演奏の総決算
当アルバムの3曲は、1983年と1986年にベルリン・フィルと録音されたもので、当シリーズで既発売の「交響詩《英雄の生涯》/交響詩《死と浄化》」(ESSG-90227)、「アルプス交響曲&変容」(ESSG-90240)と同様、いわばカラヤンにとっては、 半世紀にわたる指揮活動を背景に、自分の死後後世に残す最高のソフトを残すべく、その持てる全ての知力を動員して収録セッションを重ね、CDおよび家庭用ホームビデオ再生用の演奏映像の制作に力を入れた時期の所産です。 20世紀に活躍した作曲家の中で最も巧みなオーケストレーターの一人として知られるR. シュトラウスの交響詩やオペラは、オーケストラの持つ多彩なパレットが作り出す音色の無限の可能性の魅力を堪能させてくれるレパートリーであり、 カラヤンが最も得意とし、またカラヤンという音楽家の特質を最も端的な形で示すことのできるレパートリーでもありました。それゆえその生涯にわたって演奏に取り組み、多くの作品について、 録音技術の進歩や再生媒体の変化に伴って録音を繰り返してきました。映像作品を除いても、《ドン・キホーテ》については1965年、1975年、1986年の3回、《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》は 1951年、1955年、1960年、1972年、1986年の5回、《ドン・ファン》は1943年、1951年、1960年、1972年、1983年の5回の録音が残されています。
「何でもオーケストラの音で表現できる」R. シュトラウスの管弦楽法の粋
《ドン・キホーテ》は、「騎士的な性格の主題による幻想的変奏曲と題され、スペインの作家セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』に基づいて書かれ、ラ・マンチャの村に住む男が自分のことを騎士ドン・キホーテだと思い込み、 サンチョ・パンサを従者に従えて遍歴の旅に出、そこで繰り広げられるさまざまな出来事を巧みなオーケストレーションで表現したオーケストラ曲。「何でもオーケストラの音で表現できる」と豪語したR. シュトラウスですが、 この作品はまさにその言葉を実践したかのようで、風は弦楽器のトリル([2]風車の冒険)で、羊の群れは金管楽器のフラッター奏法([3]羊の群れに対する冒険)で、まるで本物のように表現されるのみならず、 ずぶぬれになった衣服から滴る水([9]第8変奏:修道僧に対する攻撃=弦楽器のピッツィカート)、そしてついには主人公が息を引き取る瞬間([12]終曲:ドン・キホーテの死:チェロのグリッサンド)まで、 オーケストラの楽器の組み合わせによって描写されています。カラヤンとベルリン・フィルは、作曲が音符に託したイメージを最高のヴォルトゥオジティで細密に再現しており、文字通り音楽で描き出される映像が鮮明に浮かび上がってくるかのようです。
若手の実力派チェリスト、メネセスが担ったドン・キホーテ
またこの作品は、主人公のドン・キホーテと従者のサンチョ・パンサの役を独奏チェロと独奏ヴィオラ(そしてその2人のやり取りにコメントを加えるような独奏ヴァイオリン)が演じる協奏曲的側面も持っていて、 独奏者にも巧みな「演技力」が要求されます。中でもドン・キホーテを担うチェロは重要で、カラヤンも1965年盤ではピエール・フルニエ、1975年盤ではムスティスラフ・ロストロポーヴィチという当代最高のチェリストを起用していました。 この1986年盤では、1982年のチャイコフスキー・コンクールで優勝し当時国際的に大きな注目を集めていたブラジル出身のアントニオ・メネセス(当時29歳)を抜擢し、大きな成功を収めています。シュトラウスはチェロの技巧を極限まで使い、 幻想に取りつかれた主人公の様々な感情を表現しており、メネセスは落ち着いた語り口でじっくりと伝えていきます。ヴィオラとヴァイオリンは、それぞれベルリン・フィルの首席奏者のヴォルフラク・クリスト、コンサートマスターのレオン・シュピーラーが担い、 メネセスの主人公に拮抗して、作品を雄弁に物語っていきます。
まるで映像を見るかのような鮮やかな録音
この「ドン・キホーテ」の演奏は、1996年1月、ベルリン・フィルの定期公演と並行して別途セッションを組んで撮影された映像のサウンドトラックでもあります。 家庭で再生可能なソフト制作を目的に、通常の演奏会の中継スタイルという体裁を取りながらも、実のところは数日にわたるセッションを組み、綿密に計算されたカメラワークによって収録された映像は、 カラヤン自身の監修のもとで編集され、さらにその映像の音声部分の収録には、カラヤンの盟友だったプロデューサーのミシェル・グロッツのほか、ギュンター・ヘルマンスをはじめとするドイツ・グラモフォンのスタッフが担当するという盤石の布陣が採用されました。 映像を見ると3人の独奏者はオーケストラのヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ・セクションの一番前に配置され、その配置が音にも反映されています。 またカラヤンはその3人のソリストの前にいて文字通り演奏全体を統御する役割を視覚的にも果たしており、カラヤン自身が構想したカメラ割りもそれぞれの場面で担うパートのクローズアップを多用してシュトラウスのオーケストレーションの魅力を解剖するかのよう。 そうした映像構成にフィットするかのような極めて明快なミキシングによる音作りもこの時期のカラヤン録音の特徴といえるでしょう。
自家薬籠中の「ドン・ファン」と「ティル」
フィルアップの《ティル・オイレンシュピーゲル》と《ドン・ファン》の2曲も、カラヤン&ベルリン・フィルによる自家薬籠中のレパートリーといえましょう。前者では、いたずら者のティルが巻き起こす騒動がこれ以上ないほどの躍動感で活写され、 「ドン・ファン」では永遠の女性を求めて彷徨う男の尽きることのない憧れが痛切に表現されています。この2曲は当シリーズでウィーン・フィルとの1960年デッカ録音を発売しており(ESSD-90149)、レコード会社、録音技術、オーケストラ、 そして演奏そのものの違いを比較していただくことも、興味深い聴体験となるのではないでしょうか。
最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化が実現
録音が行われたのはベルリン・フィルの本拠地であるフィルハーモニーで、ドライで引き締まったオーケストラのサウンドが左右に大きく広がるのはこのホールでのカラヤンの録音ならでは。 表現力豊かで分厚い弦楽パートを土台に、木管パートの表情の多彩さや緻密な名人芸を乗せ、さらに豪壮な金管の響きを据えられたサウンドが展開されています。制作面では、 1970年代以降のカラヤンの全てのセッションを監督したミシェル・グロッツが音楽面のプロデュースを担い、エンジニアはヴェテランのギュンター・ヘルマンスが担当するという最強の布陣です。 いずれも初出時からCDとLPがほぼ同時に発売され、さらにカラヤン・ゴールドシリーズでOriginal Image Bit Processingでのリミックスによる再発売もされていますが、Super Audio CDハイブリッド盤として発売されるのは今回が初めてです。 今回のSuper Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。 特にDSDマスタリングにあたっては、新たに構築した「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。 またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
■『あたかも名人の話芸を聴くような、実に語り上手な音楽の作り方』
– ドン・キホーテ、ティル・オイレンシュピーゲル – 「カラヤンはこうした標題音楽的な作品を指揮させると抜群のうまさを発揮するが、《ドン・キホーテ》は、まさに一分の隙も無く、完璧な仕上がりだ。各場面の描写のうまさと卓抜な演出力には、ほとほと舌を巻く。 《ティル》においても、あたかも名人の話芸を聴くような、実に語り上手な音楽の作り方で、ティルの数々のいたずらの場面をユーモアを込めて活写している。カラヤンの余裕と遊びの感じられる演奏だ。」 『レコード芸術』1987年10月号、特選盤
– ドン・ファン – 「官能的な響きと音のうねりが素晴らしい。この演奏をしのぐものは当分現れまい。」 『レコード芸術』1984年9月号、特選盤
– ドン・ファン – 「5回目の録音だが、ロマン的な作品の裡に秘められた古典的な性格を鮮やかに掬い取っている、という基本的な解釈は変わっていない。デジタル録音が再録音のひとつのきっかけだろうが、 細部まで磨き抜かれた彫琢されつくした精緻極まりない演奏を、いささかも間然とするところなく鮮明に表出している。しかも誇張や過度さはきかれない。 カラヤン&ベルリン・フィルならではのオーケストラ・サウンドの饗宴は、めくるめくような陶酔に聴き手をいざなわずにはおかない。」 『クラシック・レコードブックVOL.2 管弦楽曲編』1985年
[収録曲]
リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)
●交響詩《ドン・キホーテ》作品35 騎士的な性格の主題による幻想的変奏曲
[1] |
序奏 ― 主題 |
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第1変奏 |
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第2変奏 |
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第3変奏 |
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第4変奏 |
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第5変奏 |
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第6変奏 |
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第7変奏 |
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第8変奏 |
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第9変奏 |
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第10変奏 |
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終曲 |
[13] |
交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》作品28 ロンド形式による、昔のならず者の説話による |
[14] |
交響詩《ドン・ファン》作品20 ニコラウス・レーナウの詩による交響詩 |
詳細
録音 |
[ドン・キホーテ]1986年1月
[ティル・オイレンシュピーゲル]1986年6月
[ドン・ファン]1983年2月
ベルリン、フィルハーモニー |
初出 |
[ドン・キホーテ、ティル・オイレンシュピーゲル] 419 552-2(1987年)
[ドン・ファン]410 959-2(1984年) |
日本盤初出 |
[ドン・キホーテ、ティル・オイレンシュピーゲル]F35G 20140(1987年8月)
[ドン・ファン]F35G 50066(1984年7月) |
オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー]ギュンター・ブレースト
[レコーディング・スーパーバイザー]
[ドン・キホーテ、ティル・オイレンシュピーゲル]ミシェル・グロッツ
[ドン・ファン]ヴェルナー・マイヤー&ミシェル・グロッツ
[バランス・エンジニア]ギュンター・ヘルマンス
[エディティング]
[ドン・キホーテ]ユルゲン・ブルグリン&レイナー・ヘプファー
[ティル・オイレンシュピーゲル]ライナー・ヘプファー
[ドン・ファン]ラインヒルト・シュミット |
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