20世紀ピアノ演奏の規範となったアシュケナージのラフマニノフピアノ協奏曲全集。
エソテリックによる名盤復刻シリーズ SACDハイブリッドソフト
オリジナル・マスター・サウンドへの飽くことなきこだわりと、Super Audio CDハイブリッド化による圧倒的な音質向上で継続して高い評価をいただいているESOTERICによる名盤復刻シリーズ。発売以来LP時代を通じて決定的名盤と評価され、CD時代になった現代にいたるまで、カタログから消えたことのない名盤を貴重なマスターから進化したテクノロジーと感性とによってDSDマスタリングし、新たなSuper Audio CDハイブリッド化を実現してきました。今回はエソテリックによる名盤復刻シリーズとしてSuper Audio CDハイブリッド・ソフト3作品『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集・パガニーニ狂詩曲』『J・S・バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』、および『モーツァルト:オペラ・アリア集』を発売致します。
20世紀後半を代表する名ピアニストの足跡
バッハから現代音楽まで網羅する幅広いレパートリー、隙のない高度な技巧、バランスの取れた音楽性、そして磨き抜かれた美音で、マウリツィオ・ポリーニ、マルタ・アルゲリッチらと並んで、20世紀後半を代表するピアニストと称され、ある時期には「ピアニスト」の代名詞ともなったヴラディーミル・アシュケナージ(1937.7.6生)。ソ連のゴーリキー(現ニジニ・ノヴゴロド)に生まれ、6歳でピアノを始めた俊才は、2年後にはモスクワでデビュー。9歳でモスクワ音楽院の附属中央音楽学校に入学し、アナイダ・スンバティアンの元で研鑽を積み、1955年、18歳の時にショパン国際ピアノ・コンクールに出場し第2位を獲得。同年モスクワ音楽院に入学し、翌1956年エリザベート王妃国際音楽コンクール優勝を契機にヨーロッパ各国や北米を演奏旅行してセンセーショナルな成功を収め、1962年チャイコフスキー国際コンクール優勝によって国際的な名声を確立しました。1963年にはロンドンへ移住し、さらに1968年には妻の故国アイスランドに居を移し、1972年にはアイスランド国籍を取得。1970年頃からは指揮活動にも取り組み始め、ロイヤル・フィル、ベルリン・ドイツ響、チェコ・フィル、NHK交響楽団、シドニー交響楽団などのポストを歴任しています。2020年に音楽活動からの引退を表明したものの、録音として残されたレパートリーはCDにして120枚を下りません。
小柄な体格から生み出される高水準な演奏
身長168センチと小柄な体格にもかかわらず、頑健な肉体と柔軟な指を持ち、どんなレパートリーでも弾きこなしてしまう卓越したテクニックから生み出される万人向けのスタンダードな解釈は、まさに録音にうってつけでした。1955年ショパン・コンクールでライヴやメロディアでの初期録音を除くと、何と言っても1963年に始まる英デッカへの録音が、アシュケナージの世界的な名声確立に大きく寄与したのは間違いありません。その特徴はクラシック音楽のスタンダードなピアノ曲の大部分を精力的に網羅し、しかも高水準な演奏であり、徹底した全集主義が採られたことで、ベートーヴェン、シューマン、ショパン、ラフマニノフのピアノ作品については協奏曲と独奏曲のほぼすべてを網羅しています。
ラフマニノフ作品への献身
中でも故国ロシアを代表する作曲家ラフマニノフ作品の演奏への取り組みは献身的ともいえるもので、ピアニストとしては協奏曲全曲(全集は2回、個々の作品には別録音もあり)、ピアノ独奏曲・室内楽・歌曲のほとんどをレパートリーとしていたほか、指揮者としても交響曲全曲、主要管弦楽曲、合唱曲、さらにはピアノ協奏曲をも取り上げています。それまで「ヴィルトゥオーゾが大きな音でロシア臭く骨太に弾く晦渋な作品」というイメージが強かったラフマニノフの作品に、軽みを帯びた清新な美音、見通しの良いクリアな解釈を持ち込み、その魅力を広めることに大きく貢献しました。ピアノ協奏曲の初録音は1963年のコンドラシン モスクワ・フィルとの第2番、フィストゥラーリ/ロンドン響との第3番で、この2枚は1960年代を通じてアナログ・ステレオ時代の定番とされていましたが、1970年から翌71年にかけて録音されたプレヴィン+ロンドン響とのピアノ協奏曲全集はそれらをさらに上回り、ラフマニノフ演奏家のアシュケナージとしての名声を確たるものにしたのでした。1970年代のアシュケナージは、彼のライフワークともいうべきベートーヴェンのソナタ全集、ショパンのピアノ曲全集、モーツァルトのピアノ協奏曲全集という大きな録音プロジェクトに取り組むなどピアニストとしての一つのピークを迎えた時期に当たり、さらにピアノ演奏と並行して指揮活動も始め、音楽家としての幅も広げており、そうした充実ぶりがこの録音に反映されています。
作品の精神を捉える稀有な才能
当初から全曲録音を想定して企画されたこの全集は、そうしたアシュケナージの魅力を存分に味わえる録音と言えるでしょう。鋭敏な感受性によって、作品の精神を的確にとらえ、美しいソノリティで感情豊かに描き出しています。豪壮かつ華麗な響きにも不足せず、ラフマニノフという作曲家の音楽の魅力を余すところなく味わうことができます。
全4曲とパガニーニ狂詩曲すべてで保たれた高水準の演奏は、おそらくステレオ録音の全集としては初めてと思われるほど。第2番の冒頭のコードをアルペッジョで弾くこともアシュケナージの演奏で定着した感があります。アシュケナージのソロを手厚くサポートしているのがアンドレ・プレヴィン指揮するロンドン交響楽団の、これまた作曲家に熱い共感を寄せた演奏で、1968年のプレヴィン首席指揮者就任で開始され、イギリス音楽界で話題をまいていたこのコンビの絶好調ぶりを記録しています。ちょうど英EMIへの長期録音プロジェクトが始まった時期で、コンサートプレゼンスを重視したEMIとは異なり、細部まで明晰にとらえたデッカ録音でこのコンビの雄弁な演奏が記録されたのも幸運なことといえましょう。アシュケナージ+プレヴィン+ロンドン響は、この後1974〜75年にかけてプロコフィエフのピアノ協奏曲全集もデッカに録音しており、1970年代という時代の空気が記録されています。
デッカ最高のスタッフがキングスウェイ・ホールで収録した見事なサウンド
録音は全て1912年に建立されたロンドンのキングスウェイ・ホールで行われました。SPの電気録音最初期の1926年からデジタル録音が始まっていた1984年まで、オーケストラ、合唱、そしてオペラ作品の録音に引っ張りだこだった、ロンドンのもっとも有名な録音会場であり、その深みのある優れたアコースティックは数多くの名録音を生み出しています。ヴェテラン・プロデューサーであるクリストファー・レーバーンとレイ・ミンシャルがプロデュースを担い、ホールの音響特性を知り尽くしたデッカのチーフ・エンジニア、ケネス・ウィルキンソン(協奏曲4曲)とジェイムズ・ロック(パガニーニ狂詩曲)がバランス・エンジニアを担っています。アシュケナージの美しいタッチの明晰さ、ピアノとそれを包み込むように広がるオーケストラの絶妙なバランス、色彩感豊かな木管・金管を擁するオーケストラの各パートの立体感など、コンチェルト録音の模範解答のような名録音です。
初CD化は1988年で、2014年には24bit/96kHzリマスター、2019年にはDSDリマスターされてSuper Audio CDシングルレイヤーで発売されています。今回は2度目のDSDリマスターかつ、初のSuper Audio CDハイブリッド化となります。今回のSuperAudio CDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
『いずれも今日最も優れた演奏に数えられる』
「ピアノ協奏曲全4曲とパガニーニ・ラプソディは、いずれも今日最も優れた演奏に数えられるものだろう。とりわけ有名な第2番・第3番とラプソディは傑出した名演である。アシュケナージは持ち前の透明でいて豊かな響きの美音と確かなテクニックを駆使して、スケールの大きな演奏を聴かせる。ゆったりとおおらかな抒情性は特に魅力的だが、洗練味をただよわせながらも、ロシア的な情感も濃く、名技的な楽しみも十分に備えている。プレヴィンの指揮がまたうまくて、名演に大きく一役買っている。」
「アシュケナージによるラフマニノフのレコードは、どれも例外なく素晴らしい。この第2番においても、彼の肉付きの良い音は曲想に見事に映えている。タフで力強い要素から、幅広いたっぷりした抒情性まで、彼のピアノは十分な余裕をもってカバーし得ており、不安さがない。ラフマニノフのこの作品を、暗く、憂愁に染めるのではなく、おおらかで、健康的に再現し得るのはアシュケナージの持ち味と言えよう。プレヴィンの音楽づくりも、伴奏として万全で、曲想への共感にも熱いものがある。」
『レコード芸術別冊・クラシック・レコードブック VOL.3 協奏曲』1985年
「ハイライトは何と言っても第2番と第3番。第2番はアシュケナージがとことん弾きこんだ曲だけあって随所に閃きが感じられるし、表情も豊か。第3番はこの曲の持つロマン的情緒を見事に表出したもので、アシュケナージらしい繊細透明な音色と抒情味豊かな表現が光っている。パガニーニ狂詩曲では、プレヴィンの棒の巧みさにも拍手を贈りたい。」
『クラシックCDカタログ 89』1989年
「アシュケナージがまだソヴィエト国籍にあった若い時代の、華麗なまでに鮮やかな演奏だ。第1番では、ロシア的情緒と野性的なダイナミズムを見事に表出し、幻想的な性格を持つ第3番は、情感たっぷりにみずみずしく弾きあげている。15年後に録音されたハイティンクとの共演盤の円熟には及ばないが、これは若きアシュケナージの、ラフマニノフへの深い共感がうかがわれる全集だ。」
『クラシック名盤大全・協奏曲編』1999年
「若々しい力を存分に発揮するとともに、瑞々しく豊かな情感を湛えた演奏は魅力的。ダイナミックな表出力とロシア的な情感の深さを見事に合わせた演奏には、アシュケナージのラフマニノフへの共感がストレートに示されているといってよいだろう。しかもその演奏はお国ぶりに流されたり、感情に溺れたりすることなく、あくまでも真摯に作品に対して、各曲を存分かつ巨細に描き切っている。そうしたアシュケナージを緩急巧みにバックアップしたプレヴィンの指揮も見事である。」
『クラシック不滅の名盤 1000』2007年
「ラフマニノフはアシュケナージのお国もので、得意とする作曲家の一人。指揮者のプレヴィンもまた、ラフマニノフを重要なレパートリーに据えてきた人だ。その両者が英デッカ黄金期にロンドン響と、しかも録音の名所として知られたキングスウェイ・ホールでアナログ収録した全集となれば価値は高まるばかりだ。若き日のみずみずしい勢いは、この時期ならではの魅力。中庸を得たバランスよい解釈はアシュケナージの変わらない強みで、特に70年代の録音に聴ける冴えや充実度は、ピアニストとして稀有な高みにあったことを示す。」
『クラシック最新不滅の名盤1000』2018年
[収録曲]
◇セルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)
■DISC 1
ピアノ協奏曲 第1番 嬰へ短調 作品1 |
[1] |
第1楽章 : Vivace |
[2] |
第2楽章 : Andante |
[3] |
第3楽章 : Allegro vivace |
ピアノ協奏曲第4番 ト短調 作品40 |
[4] |
第1楽章 : Allegro vivace(Alla breve) |
[5] |
第2楽章 : Largo |
[6] |
第3楽章 : Allegro vivace |
パガニーニの主題による狂詩曲 |
[7] |
序奏と第1変奏 Introduction & Variation 1 |
[8] |
主題 Theme |
[9] |
第2変奏 Variation 2 |
[10] |
第3変奏 Variation 3 |
[11] |
第4変奏 Variation 4 |
[12] |
第5変奏 Variation 5 |
[13] |
第6変奏 Variation 6 |
[14] |
第7変奏 Variation 7 |
[15] |
第8変奏 Variation 8 |
[16] |
第9変奏 Variation 9 |
[17] |
第10変奏 Variation 10 |
[18] |
第11変奏 Variation 11 |
[19] |
第12変奏 Variation 12 |
[20] |
第13変奏 Variation 13 |
[21] |
第14変奏 Variation 14 |
[22] |
第15変奏 Variation 15 |
[23] |
第16変奏 Variation 16 |
[24] |
第17変奏 Variation 17 |
[25] |
第18変奏 Variation 18 |
[26] |
第19変奏 Variation 19 |
[27] |
第20変奏 Variation 20 |
[28] |
第21変奏 Variation 21 |
[29] |
第22変奏 Variation 22 |
[30] |
第23変奏 Variation 23 |
[31] |
第24変奏 Variation 24 |
■DISC 2
ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18 |
[1] |
第1楽章 : Moderatoo |
[2] |
第2楽章 : Adagio sostenuto |
[3] |
第3楽章 : Allegro scherzando |
ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30 |
[4] |
第1楽章 : Allegro ma non tanto |
[5] |
第2楽章 : Intermezzo(Adagio) |
[6] |
第3楽章 : Finale(Alla Breve) |
[詳細]
ヴラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
ロンドン交響楽団
指揮:アンドレ・プレヴィン
録音 |
[第1番]1970年3月25日〜26日
[第2番・第4番]1970年10月20日〜23日
[第3番]1971年3月29日〜30日
[狂詩曲]1971年11月29日〜30日
ロンドン、キングスウェイ・ホール |
初出 |
[第1番・第2番]SXL 6554(1972年)
[第3番]SXL 6555(1972年)
[第4番・狂詩曲]SXL 6556(1972年)
[全集]SXLF 6565-67(1972年) |
日本盤初出 |
[第2番・狂詩曲] SLA1033(1972年10月)*
[第3番] SLC2265(1972年11月)
[第1番・第4番]SLC2266(1972年12月)
[全集] SLE1001〜3(1977年7月21日)
※日本では、オリジナル・カップリングとは異なり、第2番はパガニーニ狂詩曲とのカップリングで発売されましたが、これは作品のポピュラリティを考慮してのことと思われます。また全集としての発売が単売から5年後だったことも、全集・単売ともに同一年に発売された 英デッカオリジナルとは異なっています。 |
オリジナル・レコーディング |
[プロデューサー]
[第1番・第3番・狂詩曲]レイ・ミンシャル
[第2番・第4番]クリストファー・レーバーン
[バランス・エンジニア]
[狂詩曲]ジェームズ・ロック
[協奏曲]ケネス・ウィルキンソン
[レコーディング・エンジニア]
[第1番]コリン・ムアフット
[第2番・第3番・狂詩曲]トリッグ・トリグヴェイソン |
※製品の仕様、外観などは予告なく変更されることがありますので、予めご了承ください。