ワーグナーのオーケストレーションの魅力を余すところなく開示するバレンボイムとシカゴ響の名盤。
エソテリックによる名盤復刻シリーズ SACDハイブリッドソフト
エソテリック株式会社は、エソテリックによる名盤復刻シリーズとしてSuper Audio CDハイブリッド・ソフト 3作品「ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」」「モーツァルト:ピアノ協奏曲集(第21〜23、25〜27番)コンサート・ロンドK・382」、および「ワーグナー:序曲・前奏曲集」を販売開始致します。
セッション録音と聴き間違うほどの完成度の高さ
バレンボイムのシカゴ交響楽団・音楽監督就任後に収録されたTELDECレーベル最初期の1枚でありTELDEC時代の扉を開いたアルバムを、今回初めてとなるリマスター盤としてSuper Audio CDハイブリッドで発売。
1991年のモーツァルト・イヤーに向けて実現した空前のレコーディング
モーツァルト没後200年のメモリアル・イヤーとなった1991年は、クラシックCD界は空前の活況を呈していました。あらゆるレコード会社やアーティストがこぞってモーツァルト作品の録音を発売しました。新録音のみならず、過去の名盤の集成もあり、その中には大部の「全集」もありました。ピアノ協奏曲の「全集」もこの年だけで4セット発売され、8曲以上を収めた「選集」は少なくとも10セットは発売されていました。その中で現在にいたるまでカタログから落ちたことがないのはごく少数しかありません。内田光子とジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団との共演によるピアノ協奏曲の録音はその少数のうちの一つです。
前人未到の境地を行くバレンボイム
現代に生きる音楽的才人の一人、ダニエル・バレンボイム(1942年ブエノスアイレス生まれ)。神童と謳われ、7歳でピアニストとしてデビュー。まだ10代だった1950年代にはザルツブルクでピアノをエドウィン・フィッシャーに、指揮をマルケヴィッチに学び、さらに巨匠フルトヴェングラーにその才能を認められるなど、その早熟の才能を早くから開花させていました。指揮者としてのデビューは1962年、20歳の時で、それ以後現在に至るまで指揮者とピアニスト両輪の活動を続けています。録音活動も旺盛で、1954年以来、ピアニスト、指揮者として数多くのレパートリーを録音しています。その広範な録音の例としては、ベートーヴェンの交響曲全集・ピアノ協奏曲全集・ピアノ・ソナタ全集が好適でしょう。この3つを一人で録音した音楽家はほかにもいるとしても、交響曲全集を2回、ピアノ協奏曲全集をピアニストとして1回、弾き振りで2回、指揮者として1回、ソナタ全集に至っては映像も入れると5種類のソフトを発売しているのがバレンボイム。しかもその全てを極めて高いクオリティで実現しており、文字通り前人未到の境地と言えるでしょう。
「さまよえるオランダ人」以降のワーグナーのオペラ全曲を録音した名指揮者
指揮者としてのバレンボイムの演奏活動の中で大きな比重を占めているのがワーグナーのオペラ演奏でしょう。1981年、新演出の「トリスタンとイゾルデ」でバイロイト音楽祭にセンセーショナルなデビューを飾り、以後1990年代まで同音楽祭で中心的な役割を果たし、さらに1992年からベルリン国立歌劇場音楽監督に就任すると、毎春ワーグナー作品の集中的な上演を行なう音楽祭フェストターゲを創設し、ワーグナー解釈者としての名声を確たるものにしています。その勢いは録音面にも反映され、1989年から2001年にかけて「さまよえるオランダ人」以降のワーグナーのオペラをすべて録音。「オランダ人」以降のワーグナーのオペラ全曲録音を残したのはバレンボイムの前にはショルティが、後にはヤノフスキがいるのみで、これも録音史上偉大な業績と言えるでしょう。そんなバレンボイムが手掛けたワーグナーのオーケストラ・アルバムの録音は意外に少なく、まとまったものは、バイロイト登場直後の1982〜83年にパリ管と録音した2枚、そして今回世界で初めてSuper Audio CDハイブリッド化される「序曲・前奏曲集」を含む、シカゴ響音楽監督時代(1991〜2006年)に録音した3枚があるのみです。
1970年代から録音を重ねてきた名コンビ
バレンボイムとシカゴ響との初録音は1970年のジャクリーヌ・デュ・プレとのドヴォルザークのチェロ協奏曲(旧EMI/ 現WARNER CLASSICS CLASSICS)。このコンビによる本格的な録音プロジェクトは1972年にドイツ・グラモフォンで開始されたブルックナーの交響曲全集で、1980年に完結した段階でアメリカのメジャー・オケによる初のブルックナー全集となりました。当時音楽監督だったショルティがあくまでもアンサンブルの精度を極め、明晰・明解な音楽づくりを志向したのとは対照的に、バレンボイムは音楽解釈に19世紀風のロマンティシズムや奥行きを追求し、自らが私淑していたフルトヴェングラーを思わせるようなドラマティックな揺らぎとうねりを与える手法を重視し、デッカとグラモフォンというレーベルの音作りの極端な差異も相まって、並行して発売されるショルティとバレンボイムのレコードでのシカゴ響が全く異なるサウンドを生み出すさまは痛快でもありました。ショルティの後を継いで音楽監督に就任してからは、その方向性を突き進み、15年という長きにわたる長期の関係を築き上げています。
シカゴ響の魅力を余すところなく発揮したワーグナー
1992年から94年にかけて録音されたこのワーグナーの序曲・前奏曲集もその傾向にあるアルバムで、初期の「オランダ人」から中期の「トリスタン」までの名曲をバランスよく配し、ワーグナー入門にもピッタリの選曲がなされています。演奏面でも、「マイスタージンガー」前奏曲冒頭のレガートを効かせた豪壮な響き、あるいは海のうねりを活写した「オランダ人」序曲は、バレンンボイムらしいドラマ性の発露の最適の例と言えるでしょう。一方で、「タンホイザー」序曲冒頭の管楽器のアンサンブルの美しいレガート、「ローエングリン」の前奏曲での弱音領域での柔和で繊細なサウンド、あるいは得意とした「トリスタン」における神秘的な音作りも、指揮者としてのバレンボイムの実力が存分に発揮された表現です。この頃のシカゴ響にはまだ伝説的な金管奏者のアドルフ・ハーセス(トランペット)、デール・クレヴェンジャー(ホルン)が在籍していた時期で、彼らが牽引するブラスセクションの圧倒的な輝きは、「ローエングリン」第3幕への前奏曲で遺憾なく発揮されています。
セッション録音と聴き間違うほどの完成度の高さ
録音は、シカゴ響の本拠地で、1904年に建立されたオーケストラ・ホール(席数2,566)で行われました。残響が少ないため、3階席に座っても細部まで明晰に音が通る会場ですが、必ずしも録音向きではなく、フリッツ・ライナー時代にはリビングステレオの名録音を多数生み出したものの、1950年代後半からステレオ録音が本格化し、また1966年の内装工事によるサウンドの悪化もあって、録音ではより響きの多い会場(メディナ・テンプルなど)でのセッションが好まれるようになりました。ショルティ時代の後半になって、さまざまなリノベーションが功を奏し、さらにライヴ録音が増えたこともあり、オーケストラ・ホールでの録音が復活し、普段着のシカゴ響のサウンドに接することができるようになりました。バレンボイムが音楽監督に就任してからのシカゴ響の録音は、ともにワーナーミュージック傘下のエラートとTELDECレーベルで行われましたが、このワーグナー・アルバムが録音された時期はちょうどエラートからTELDECへの移行期でした。バレンボイムとシカゴ響の録音も最初はエラートで発売され、やがてTELDECに移って本格化していったようにも見えるため、TELDECレーベル発売の最初期の1枚であるこのワーグナー・アルバムはTELDEC時代の扉を開いた1枚であるとも言えましょう。オーケストラの各声部は実に存在感のある、厚みのある音で明晰に収録されており、オーケストラ・ホールに満ちるシカゴ響のサウンドのイメージを見事に再現しています。発売以来今回が初めてのリマスターとなります。
Super Audio CDハイブリッド化に当たっては、これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
『バレンボイムのあらゆる音楽的希求に対して、オーケストラが完璧に対応』
「バレンボイムはオペラに置いても確実に注目すべき業績を重ねているし、ワーグナーの表現においては、いわば転生とも思えるような強靭な力を発揮してきている。このシカゴ交響楽団との序曲・前奏曲集もそうで、きわめてよく知られた音楽ばかりであるが、それらが、誰にも納得いく世界を示しているのと同時に、他のいかなる追随も許さないほど真摯で強烈なものとなっている。それは、バレンボイムのあらゆる音楽的希求に対して、オーケストラが不可能という文字を知らぬほど完璧に対応し得ているからでもあろうが、この種のレパートリーとしては、まさに最上の一枚と言っても過言ではない。」
『クラシック名盤大全・管弦楽曲編』1998年
[収録曲]
◇リヒャルト・ワーグナー(1813-883)
序曲・前奏曲集 |
[1] |
歌劇《さまよえるオランダ人》:序曲 |
[2] |
歌劇《タンホイザー》:序曲 |
[3] |
歌劇《ローエングリン》:第1幕への前奏曲 |
[4] |
歌劇《ローエングリン》:第3幕への前奏曲 |
[5] |
楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》:前奏曲 |
[6] |
楽劇《トリスタンとイゾルデ》:前奏曲と愛の死 |
[詳細]
シカゴ交響楽団
指揮:ダニエル・バレンボイム
録音 |
1992年9月26日(5)
1993年1月16日(6)
1994年5月7日(1〜4)
シカゴ、オーケストラ・ホール |
初出 |
[第21番]PHILIPS 416 381-2(1986年)
[第22・23・25・26・27番・ロンド]PHILIPS 416 381-1、他 |
初出 |
TELDEC 4509-99595-2(1995年) |
日本盤初出 |
WARNER MUSIC JAPAN WPCS4555(1995年10月10日) |
オリジナル・レコーディング |
[エクゼクティヴ・プロデューサー]ニコラス・デッケンブロック
[レコーデイング・プロデューサー]ヴィクター・ミュンザー
[レコーディング・エンジニア]コンラッド・シュトラウス(1〜4)、ローレンス・ロック(5〜6)
[サウンド・エンジニア]クリス・ウィリス
[エディター]コンラッド・シュトラウス |
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