70年代のポリーニを総括するブラームスの大作2曲の名演。ポリーニ追悼リリース
エソテリックによる名盤復刻シリーズ SACDハイブリッドソフト
ESOTERIC(エソテリック)は、エソテリックによる名盤復刻シリーズとして Super Audio CDハイブリッド・ソフト 3作品「ブラームス ピアノ協奏曲 第1番・第2番」「ビゼー 《カルメン》組曲、《アルルの女》組曲 グノー 《ファウスト》から バレエ音楽、ワルツ」、および「ラヴェル ボレロ、バレエ《マ・メール・ロワ》スペイン狂詩曲、海原の小舟、道化師の朝の歌」を販売開始致します。
厳しい審美眼に基づいて録音レパートリーを限定したポリーニが遺したブラームスの2曲
自分が納得するクオリティにまで解釈を高められた作品だけを公にしたポリーニが、ブラームスから選んだのはこの協奏曲とピアノ五重奏曲のみ。1970年代後半に録音したこの2曲は、20世紀後半における新たな作品解釈の扉を開いた画期的な演奏という点で、今でも歴史的な意義を持つ名盤。
20世紀後半にセンセーションを巻き起こしたポリーニのピアニズム
2024年3月、82歳で亡くなったイタリアの名ピアニスト、マウリツィオ・ポリーニ(1942-2024)。ポリーニが一躍その名を世界にとどろかせたのは、1960年のショパン国際コンクールで優勝を飾った18歳の時のこと。審査員全員一致の推挙であり、しかも審査員長だったルービンシュタインの「私たち審査員の中で、彼ほど上手く弾けるものがいようか」という言葉は、ポリーニという存在がいかにセンセーショナルであったかを物語っています。ミラノのヴェルディ音楽院卒業のはるか前の9歳でデビューを果たした若きピアニストは、しかし、この直後に公の演奏活動から身を退き、レパートリーの拡充を含めさらに自らの芸術を深めるための研鑽を続けたのでした。そしてそのドロップアウトの期間を経て1968年に演奏活動を本格的に再開し、1971年にはドイツ・グラモフォンからストラヴィンスキー「ペトルーシュカからの3章」でデビューし、それまでの演奏・録音史を根本から塗り変える鮮烈なアルバムを続々と発表し続けました。
作品を何度も演奏し解釈を深めていくポリーニ
ポリーニは幅広いレパートリーを取り上げるというよりも、自分が納得するクオリティにまで解釈を高められた作品だけを公にし、繰り返し演奏してさらに彫琢を深めていくタイプの演奏家でした。レコーディングにはさらに慎重で、バッハは平均律第1巻のみ、ハイドンやモーツァルトのソナタは皆無、フランスものはドビュッシーのみ・・・など、彼の厳しい審美眼に基づいて録音レパートリーが限定されていたことに気付きます。「三大B」の一角を担うブラームスの作品もそうで、彼が録音として残したのは2曲の協奏曲とピアノ五重奏曲のみでした。例えばブラームス晩年の滋味溢れる小品集(作品116や作品119が来日公演で取り上げられたことがあります)の録音は実現しませんでした。同じ「三大B」でも、ベートーヴェンはソナタと協奏曲全曲を繰り返して演奏・録音していたのと比べると、ブラームスについてのスコープは狭かったことになりますが、それでも2曲の協奏曲についてはそれぞれ3回にわたって録音を残しており、ポリーニが3回録音した作品は他に見当たらないことを考えると、作品についての思い入れも一入だったはず。今回Super Audio CDハイブリッド盤としてリリースするのは1970年代後半に録音した第1回目のもので、これら2曲のイメージを大きく変え、20世紀後半における新たな作品解釈の扉を開いた画期的な演奏という点で、今でも歴史的な意義を持つ名盤であるといえるでしょう。
盟友アバドとの第2番
ポリーニがドイツ・グラモフォンに協奏曲を録音し始めたのは1976年のことで、1982年までに、モーツァルト(第19番・第23番)、ベートーヴェン(全5曲)、ブラームス(全2曲)、バルトーク(第1番・第2番)が録音されていきます。ブラームスの2曲のうち、最初に録音されたのは第2番で、1976年5月、第8回定期およびウィーン芸術週間の開幕演奏会と並行してセッションが持たれました。このセッションはドイツ・グラモフォンによるレコード録音のみならず、ユニテルによる映像収録も兼ねていて、この時期のユニテル映像の特徴である無人のムジークフェラインで燕尾服を着て演奏する姿が緻密なカメラワークで捉えられることになりました(LPジャケットにもその1カットが使われました)。音声ソフトとしての発売と並行して映像のTV放映でアーティストのイメージを広めていくメディアミックスの手法がとられ、ポリーニにかけられていた期待の高さがうかがえます。指揮を担ったのはクラウディオ・アバド(1933-2014)で、共にミラノの出身であるアバドとポリーニは1960年代から何度も共演を重ね、音楽的にも政治信条(左派)でも波長が合い、いわばお互いに同志ともいうべき強い絆で結ばれていた存在であり、録音ではすでに1973年に、やはり同じく二人の盟友だったノーノの「力と光の波のように」で共演していました。ポリーニ、アバドともに、流麗かつアポロ的な音楽づくりを得意とする音楽家であり、ブラームスでもそれまでの作品のイメージを塗り替えるような新鮮な驚きに満ちた解釈を打ち立てています。「ドイツ・ロマン派究極の大作」という重厚なイメージをまといがちだったこの協奏曲に、ブラームスが作曲のインスピレーションを求めたイタリアの陽光や空気の解放感を実際の音としてもたらし、決して軽薄という意味ではない軽味・明るさを作品解釈に持ち込んだのです。
ベームとの最後の共演となった第1番
第1番はその3年後の1979年12月の収録で指揮はカール・ベーム(1894-1981)。これは実際の演奏会とは関係なくドイツ・グラモフォンの録音用に組まれたセッションで収録されました。若手演奏家の評価には常に厳しい態度で臨むことで知られていたベームですが、ポリーニについては全面的に信頼を寄せ、モーツァルト(第19番・第23番)やベートーヴェンの協奏曲(第3番〜第5番の3曲)という重要なレパートリーで録音を重ねており、このブラームス第1番が録音上では二人の最後の共演となりました。ベーム指揮によるブラームスの協奏曲第1番といえば、1953年録音のバックハウスとの火花散るようなドラマティックな伴奏が知られていますが、26年後のこのポリーニとの共演ではそうした直接的な興奮の代わりに、どっしりと構えた重量級のオーケストラの枠組みを作ってポリーニをフルにサポートする姿勢が前面に出ています。晩年のベームは体調によってテンポが間延びしたり、演奏の密度が薄まったりするここもあったようですが、この録音ではそうした不調とは無縁で、音が密集して鳴りにくいオーケストラ・パートを存分に響かせ、これ以上のないほど濃密なサウンドでブラームスのオーケストレーションの魅力を開示しています。そのオーケストラのカーペットの上で、ポリーニも渾身の力で演奏至難なピアノ・パートをクリスタルのような抜群の明晰さで弾き切っており、中でも第2楽章主部の澄み切ったピアニズムや、第3楽章後半のカデンツァでの緻密な音さばきなど、聴き所は無数にあります。
最高の状態でのSuper Audio CDハイブリッド化が実現
レコーディングはウィーン・フィルの本拠であるムジークフェラインのグロッサーザールで行われました。第1番はソロ、オーケストラともに音像が近く、モノクロームな直接音が2つのスピーカーから満ち溢れるかのような、作品の重厚感を反映した音作りがされています。第2番はムジークフェラインの美しい残響をより多く取り入れ、特にピアノ・ソロのキラキラと輝くような音色が捉えられており、ブラームスがインスピレーションを受けたイタリア的なイメージが具現化されているようです。発売以来カタログから消えたことがない名盤で、CD初期の1987年にCD化され、1997年にはOIBPリマスター化されています。また2017年にはSuper Audio CDシングルレイヤーでも発売されていますが、ハイブリッド盤としての発売は今回が初めてとなります。これまで同様、使用するマスターの選定から、最終的なDSDマスタリングの行程に至るまで、妥協を排した作業をおこないました。特にDSDマスタリングにあたっては、「Esoteric Mastering」を使用。 入念に調整されたESOTERICの最高級機材Master Sound Discrete DACとMaster Sound Discrete Clockを投入。またMEXCELケーブルを惜しげもなく使用することで、オリジナル・マスターの持つ情報を伸びやかなサウンドでディスク化することができました。
「ブラームスのイタリアへの憧れを、イタリア側からしっかりと受け止めた演奏」(第2番)
– 第1番 –
「ポリーニの演奏を聴く場合ブラームスの音楽に対する先入観を捨てる必要がある。彼のタッチが透徹した響きを持つと言ってもメカニックな冷たさとは異質のものである。第2楽章は明るい音色と落ち着いた表情で演奏しているが、もう一つ感情に深さが欲しい。ベームの美しいppが感情の深々と沈んでいく感じを見事に生かしているので、それが目立ったことも事実。近年のベームには滋味ともいえる魅力がある。」
『レコード芸術』1980年1月号 推薦盤
「ポリーニの明晰な知性と詩情とが見事にバランスしているピアノを、ベームが暖かな情感に満ちた端正な指揮ぶりで鮮やかに浮かび上がらせている。ポリーニのブラームス演奏は、ドイツ的な重厚さを表面に押し出すものではなく、冴えたタッチの透徹した音で、一音たりとも曖昧に鳴らすことはなく、明晰に明確に表出していく。そして情感のニュアンスはじつにこまやかで、そこから美しい詩情が香りでてくるのである。現代のブラームス像とでも行けるような新鮮な魅力が聴かれる演奏だ。」
『クラシック・レコード・ブック Vol.2 協奏曲編』1980年
「ポリーニが協奏曲を集中的に録音していた時期の演奏であり、当時37歳の彼は、老練のベームの指揮を得て、のびのびとしたソロを聴かせる。透徹したタッチで弾き進めるポリーニは、冴えたテクニックを披露しながら、ブラームスノシンフォニックな協奏曲に対して明晰なアプローチを示す。ニュアンスの与え方が細部まで丁寧であり、作品のもつロマンティックな抒情美を見事に浮かび上がらせたその演奏は、現在においても新鮮な魅力を放つ。一方、ベームの端正にして気品を保った指揮は、オーケストラから情感豊かな表現を引き出すと共に、温かな眼差しをもって、ポリーニのピアノを着実に支えている。」
『クラシック名盤大全 協奏曲編』1998年
– 第2番 –
「ポリーニ、アバドの激しいぶつかり合いが眼前に浮かんでくるほどの熱の入った迫力のある演奏。ポリーニのピアノはいくぶん金属的な冷たさを持っているが、激しく情熱を燃え上がらせているため気にならない。アバドの指揮も大きくものを言っており、ウィーン・フィルを完全に手中に収めて、意のままにコントロールしている。ことに第2楽章の静と動との兼ね合い、静かな弦の美しさが見事である。」
『レコード芸術』1978年9月号 推薦盤
「張り詰めた力の横溢したブラームスだ。独奏ピアノもオケも贅肉質的な要素はなく、キリリと引き締まっており、しかもその剛毅さたるや、ちょっと比類がない。明るく磨き抜かれたような音色は隅々まで行き渡り、ブラームスが書いた美しい旋律は過不足なく歌われているのだが、それらは決して歌い流されてしまうことなく、きちんとした造形感覚でまとめ上げていく。しなやかで、かつ強靭な性格を持っている。ブラームスのイタリアへの憧れを、イタリア側からしっかりと受け止めた演奏といえよう。」
『クラシック・レコード・ブック Vol.2 協奏曲編』1980年
「この頃のポリーニは、現在の彼にはもはや求めることのできない恐ろしく強靭な集中力と人間離れした強力なテクニックの冴えがあった。この演奏は瑞々しい歌と白熱した緊迫感に溢れる名演で、特に第1楽章、第2楽章の輝かしい表現は、未だに新鮮で圧倒的なアピールを放ち続けている。」
『クラシック名盤大全 協奏曲編』1998年
[収録曲]
◇ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
■DISC 1
ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15 |
[1] |
第1楽章:Maestoso |
[2] |
第2楽章:Adagio |
[3] |
第3楽章:Rondo(Allegro non troppo) |
■DISC 2
ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83 |
[1] |
第1楽章:Allegro non troppo |
[2] |
第2楽章:Allegro appassionato |
[3] |
第3楽章:Andante |
[4] |
第4楽章:Allegretto grazioso |
[詳細]
マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
カール・ベーム指揮 [1-3]
クラウディオ・アバド 指揮 [4-7]
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ
指揮:レナード・バーンスタイン
録音 |
[1-3]1979年12月19日〜21日、ウィーン、ムジークフェライン、グロッサーザール
[4-7]1976年5月24日〜26日、ウィーン、ムジークフェライン、グロッサーザール |
初出 |
[1-3]Deutsche Grammophon 2531 294(1980年)
[4-7]Deutsche Grammophon 2530 790(1977年) |
日本盤初出 |
[1-3]グラモフォンレコード 28MG0006(1980年11月28日)
[4-7]グラモフォンレコード MG1083(1977年7月1日) |
オリジナル・レコーディング |
[プロダクション&レコーディング・スーパーヴィジョン]
[1-3]ハンス・ウェーバー
[4-7]ライナー・ブロック
[トンマイスター(バランス・エンジニア)]
[1-3]ギュンター・ヘルマンス
[4-7]クライス・ヒーマン |
※製品の仕様、外観などは予告なく変更されることがありますので、予めご了承ください。